馬体管理ソフト「SUKOYAKA」の紹介
No.142 (2016年3月1日号)
JBBAから軽種馬牧場管理ソフト「SUKOYAKA」がリリースされました。
SUKOYAKAは、軽種馬の栄養管理と馬体情報管理をサポートするソフトで、JBBA日本軽種馬協会のウエブサイトからダウンロード(無料)できます。(こちらからダウンロードできますhttp://jbba.jp/assist/sukoyaka/index.html)当ソフトは、「SUKOYAKA栄養」と「SUKOYAKA馬体」の二つで構成されています。
SUKOYAKA栄養
SUKOYAKA栄養は、各馬のステージにあった養分要求量を計算し、現在与えている飼料の充足率を確認することができるソフトです。簡単に言うと、子馬であれば「今与えているエサもしくは新たに導入しようとしているエサを与えることによって、病気にならずに適切な成長ができるか」。妊娠馬であれば、「母体も健康で、健康な子馬を出産することができるかどうか」「それらのエサをどのくらい与えればよいのか」これらを判断するうえでの目安を提示してくれるものです。では、具体的な飼料設計の例を見ていきましょう。
例)1月の1歳馬の飼料設計
ここでは22時間放牧の昼夜放牧をしている1歳馬(9ヶ月齢 馬体重350kg)の飼料を考えてみます。この時期、北海道では積雪があるため、放牧草からの栄養摂取は考慮しないこととします。まず、エンバクとルーサン乾草で設計してみます。この場合、SUKOYAKA栄養で計算すると、エネルギーとタンパク質は充足していることが確認できます(図1)。一方、銅や亜鉛など、子馬の健康な骨成長に影響を及ぼすミネラル類については、充足率が14~15%であり、明らかに不足していることが分かります。
図1.エンバク3kgとルーサン5kgの飼料設計
そこで、エンバク3kgを2kgに減らし、バランサータイプ飼料1kgに置き換えてみましょう。これにより、濃厚飼料を増やすことなく、銅や亜鉛などのミネラルも充足することができます(図2)。ただし、全項目の充足率が100%以上であれば適切かといえば、決してそうではなく、あくまで計算上の目安でしかありません。子馬の馬体成長や疾病発症に影響を及ぼす要因としては、飼料から摂取する栄養以外に、遺伝や環境(気候など)なども無視できません。あくまで算出された値を目安として、個体ごとの健康状態や発育の程度、疾病の有無などを把握しながらの飼料調整が必要となります。このため、定期的な馬体重や体高などの測定、BCS(ボディコンディショニングスコア)や疾患の有無を確認するための馬体検査などの実施が推奨されます。これらの体重測定や馬体検査で得られたデータは、その都度の飼料設計に利用できるだけではなく、継続的に複数年(複数世代)のデータを蓄積していくことで、飼養管理方法の改善にもつなげることができます。これをサポートするツールが「SUKOYAKA馬体」です。
図2.エンバク2kg、バランサー1kg、ルーサン5kgの飼料設計
SUKOYAKA馬体
SUKOYAKA馬体は、子馬や繁殖牝馬の個体情報を記録し、管理するためのソフトです。定期的に測定した馬体重を入力すると、自動的にグラフ化してくれます。また、子馬については、標準曲線と比較することもできます(図3)。標準曲線は、日高管内の30牧場の約2,400頭の子馬の馬体重データ4万点を性別・生まれ月ごとに分けた平均値をもとに作成したものです。この標準曲線と登録馬のデータを比較することで、子馬の成長度合いの確認ができます。ただし、「標準曲線はあくまで目安である」ということを念頭に置いて利用して下さい。すなわち、標準曲線を「上回ったら、飼料を減らす」「下回ったら、飼料を増やす」など機械的に利用するのではなく、あくまで、実馬を観察したうえで、BCS、体高、胸囲、管囲、疾病の有無、放牧草の状態などの情報と併せて飼養管理に活用することが合理的です。また、子馬および繁殖牝馬の様々なデータ蓄積は、生産牧場における適切な飼養管理、もしくは管理方法の改善に大きく寄与します。ビジネスの世界で使われている「PDCAサイクル」、つまりPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の4段階を繰り返すことにより業務を継続的に改善する手法は、生産牧場でも活用することができます(図4)。この場合、正しくCheck(評価)するためには、「事実の正しい認識」が重要です。つまり、「曖昧な主観的感覚」ではなく、「客観的なデータ」の検証が必要になります。SUKOYAKA馬体は、馬体重だけではなく、体高などの測尺値やBCS、出産、病気、離乳などの様々なイベント、給与飼料や病名などの必要に応じたコメントを入力し、データとして蓄積することができます。これらの蓄積データを活用することにより、過去に実施した飼養管理方法の評価「振り返り」が可能となり、適切な改善へとつながります。
「振り返り」の具体例としては、「昨年の世代と比較して、今年の1歳馬は骨疾患が多い。昨年と今年の馬体成長やBCSに違いはあるだろうか?」「今年の1歳馬は冬期のBCS保持が困難だった。離乳期の馬体重やBCSは問題なかっただろうか?」「今年は繁殖牝馬の受胎成績が良くなかった。成績が良かった昨年の馬体重やBCSと比較してみよう」などがあげられます。
このようなデータを活用した評価をすることで、具体的な改善策が浮かび易くなります。また、栄養指導者などの第三者に相談する場合でも、過去の蓄積データを示すことで、より適切な解決策の発見につながります。是非、軽種馬牧場管理ソフト「SUKOYAKA」をご活用ください!!
図4.SUKOYAKAを活用した牧場におけるPDCAサイクル
(日高育成牧場・専門役 冨成雅尚)