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2019年1月

2019年1月30日 (水)

良い馬は良い放牧地から

No.37 (2011年8月1日号)

 当歳から1歳にかけての適切な発育と基礎体力の養成、あるいは繁殖牝馬の年間をとおしての機能維持において、放牧の重要性は誰もが認識するところです。しかし、その基礎となる放牧地の管理方法については、残念ながら十分理解され実践されているとは言い難い状況にあるといえます。その背景には、労力と経費がかかる割には効果の確認が困難であることのほかに、草地土壌種が複雑であり、それらに基づいた馬をベースとした管理体系がわが国に存在しない、放牧地よりも採草地の管理に重点が置かれていた、ことなどが考えられます。
 こうしたなか、少し前になりますが、一昨年の11月にJBBAとJRAの共催によって実現したロジャー・アルマン先生の講演「良い馬は良い放牧地から」を振り返り、放牧地の管理を確認したいと思います。

ロジャー・アルマン先生
 ロジャー・アルマン先生は、全米26の州に加え、ドイツ、フランス、アイルランド、イギリス、日本に所在する合計400以上の牧場と草地コンサルタント契約を結ぶバイタリティあふれる先生です(写真)。JBBAが2006、07年に実施したカウンターパート養成研修においてもケンタッキーでお世話になりました。馬の放牧地にとって重要な条件は、「栄養のバランス」「嗜好性」「生産性」「安全性」であり、他の動物で重視される「効率的な体重増加」とは異なると力説されています。今回の講演では、講演の3か月前に来日した折に日高管内4牧場の簡易調査を実施し、講演時にはそれらの土壌分析結果を含む調査成績をもとに問題点や改善方法について紹介していただきました。

1_2 写真 調査時のアルマン先生

放牧地のpH改善
 アルマン先生の調査方法は、放牧地をくまなく歩きながら各所で土壌をサンプリングし、作成した放牧地マップに記録し手早く特徴を把握していきます(図1)。その後、土壌の成分分析を自分のラボで終えたのち、現状と改善方法について報告書が届けられます。アルマン先生がもっとも指導に力を注ぐのは土壌pH改善のための石灰施用です。今回調査した4牧場、4放牧地から採取した32点の土壌のpHは4.7から6.2まで分布しそれぞれに対するpH矯正に必要な石灰施用量が提示されました(図2)。

2_2 図1 左は推奨される石灰施用量(中央斜線部分がもっとも多い地区)、右図は土壌中のリン酸含量(緑部分がもっとも高く、赤部分がもっとも低い地区)を示す

3_2 図2 各牧場(A~D)の放牧地土壌pHと改善に必要な石灰施用量

以下に、アルマン先生による「石灰の有用性」を引用します。
「石灰を散布すると、土に含まれるカルシウムとマグネシウムを増やすことができます。カルシウムは草に吸収され、馬が摂取する栄養素となる。適正な量のカルシウムを摂取することは、馬に必要な丈夫な骨の発育のために重要である。また、石灰は土のpHを上昇させ、土の酸性度を下げる効果がある。馬用の放牧地については6.2から6.8の間のpHが望ましいと考えている。その範囲内のpHであれば、十分な量のカルシウムとマグネシウムが草に、そして結局は馬に供給される。土の酸性度が下がることで、微生物が有機物を消費してミネラルを分解し、窒素を固定する活動が活発になる。石灰は過剰に存在しているアルミニウムや鉄と結合し、その結果、草に供給されるリンの量が増えることになる。さらに、石灰の化学的および力学的作用、またその作用による有機物の大幅な増加は、土の物理的性質をゆっくりと着実に改善する効果がある。しかし、石灰を過剰に散布しないことも非常に重要である。土壌検査を行い、石灰が必要という結果が出ている場所においてのみ、石灰を散布するべきである。土のpHが高くなりすぎると、銅や亜鉛といった微量ミネラルが草に供給されなくなり、馬もその恩恵を受けることができなくなる。石灰は容易に土から消えないので、一度pHを上げすぎてしまうと、適正なpHに戻るまで何年もかかってしまうかもしれない。」

放牧地管理の要点
 アルマン先生による放牧地管理の要点は以下のとおりです。

1)掃除刈り:定期的に放牧地の草を刈り、適正な高さに保つことは非常に重要で、6~8インチ(約15~20cm)くらいの高さが好ましいと考えている。頻繁に刈っている草は、高く伸びることや、種を作ることよりも、密に生えて横に広がることに多くのエネルギーを使うようになるので、結果的に馬が食べられる牧草の量を増やすことにもつながる。また、短い草は柔らかく、繊維質も少なく、馬も短い草の方を好んで食べる。ただし、短く刈り過ぎると、気温が高い時には土がすぐに乾燥し、また草の成長が止まる冬には牧草の量が限られてしまう。掃除刈りは、最も効果的に雑草を抑制する方法でもある。定期的に掃除刈りを行って、成長する前に雑草の種子形成を防げば、翌年新しい雑草が生えてくるのを抑制することができる。

2)石灰散布と施肥:適正な量の石灰と肥料を散布することは草の健全な成長を促進する。また、土の養分の補正に必要な正しい量を使用することによって、馬はよりバランスのとれた栄養を牧草から摂取することができるようになる。

3)播種:使用頻度が高く、嗜好性の高い草が少ない放牧地には、適切な播種が特に重要である。実際、使用頻度の高い放牧地では、ブルーグラスやライグラスなど馬が好む草は、なくなるまで食べ尽くされてしまうかもしれない。また、馬が集まりやすく、馬が歩くことによるダメージで草が失われがちな放牧地の出入り口付近やコーナー部分に播種を行うことも重要である。そのような場所は、草が生えていないと土の浸食が一層進んでしまう。

4)放牧地の回転(ローテーション):草が良く伸びている時期に、2週間ほどの短い期間でも放牧地を休ませると、草を密に保ち、雑草を防ぐうえで大変効果がある。放牧地をローテーションで使うことができない場合は、特に草が良く食べられている場所に堆肥を薄く撒くことで、より均一に草が食べられるようにすることができる。馬は短い草を好むので、他の場所に誘導されない限り、既に短く食べている場所の草をさらに食べてしまう。

5)堆肥の散布:堆肥を放牧地に撒くことは、土に含まれる有機物の量を増やすうえで非常に効果的である。有機物は乾燥している条件でも土の水分を保持する効果がある。放牧地で寄生虫が増えるのを嫌がって、堆肥を撒きたくないと考えるホースマンは昔から多いが、適正に駆虫を行っている牧場であれば、そのような心配はないはずである。

6)チェーンハロー:放牧地にチェーンハローをかけると、枯れた草や糞の塊をほぐして散らすことができる。チェーンハローをかける望ましい頻度は、放牧地における馬の密度と糞の量によって異なる。それほど利用頻度が高くない放牧地であれば、年に1度か2度のハローがけで十分なはずである。種を播く前と後にチェーンハローをかけると、種と土の間の接触が良くなる。しかし、乾燥した条件でチェーンハローをかけると、土が乾きやすくなってしまうこともある。雑草のコネズミガヤ(Nimblewill)が多く生えている放牧地は、9月と10月頃にチェーンハローをかけると種が広がってしまうので、その時期のハローがけは避けるべきである。

7)エアレーター:スパイクが付いたタイプのエアレーターは、草の根の成長を促進し、土の圧縮を防ぐ効果がある。石灰や肥料を撒く前にエアレーターをかけると、特に斜面における成分の流出を防ぎ、根に直接成分が届くようにする効果がある。

 以上が放牧地管理の基本的なポイントとなるが、どの放牧地もそれぞれ性質が異なり、必要な処置が異なることを認識しておくことが重要である。植生の種類、単位面積当たりの馬の頭数、土の質といったさまざまな要素によって、必要な管理の度合いが大きく変わってくる。参考までにアルマン先生が奨める放牧地管理の年間スケジュールを図3に示しました。

4_2 図3 各種放牧地管理の年間スケジュール

 近年、昼夜放牧の普及にともない放牧地の重要性はさらに増しています。地元の農業改良普及センターとも相談しながら、「良い馬は良い放牧地から」を実践しましょう。

(日高育成牧場 専門役  頃末憲治)
(前場長  朝井 洋)

2019年1月28日 (月)

JRA育成馬の購買方法

No.36 (2011年7月15日号)

 JRAでは「強い馬づくり」すなわち、内国産馬の資質向上や生産・育成牧場の飼養管理技術向上に貢献することを目的に、育成研究業務を行っています。ここで得られた成果は、ブリーズアップセールで売却後の競走パフォーマンスにおいて検証された後、広く競馬サークルに普及・啓発することとしています。今回は、育成研究業務のアウトラインとJRA育成馬の購買について紹介いたします。

JRAの育成研究
1)初期・中期育成
 生産から初期、中期育成期においては、いまだに多くの課題が残され、国際競争力を持つ資質の高い馬づくりのためには、さらなる生産育成技術の向上が求められています。例えば、「繁殖牝馬の不受胎」や「受胎後の胚死滅」および「流死産等の予防」による生産率の向上、「競走成績に影響を及ぼすDOD(発育期整形外科疾患)の予防」、「寒冷地における効果的な冬季の放牧管理やウォーキングマシンを含めた運動方法の確立」等です。これらの課題に取組むため、10頭の繁殖牝馬とJRAホームブレッド(生産馬)を活用しています。

1 冬季に昼夜放牧を行う1歳馬。わが国の気候に適した初期育成管理方法の開発が求められている。

2)後期育成
 JRAはこれまで、各種講習会の開催、『JRA育成牧場管理指針』の配布、BTCおよびJBBAの人材養成をはじめとした各種外部研修生の受け入れ等の活動によって、「昼夜放牧の普及」、「安全なブレーキング技術の導入」、「市場上場馬の展示方法の改善」、「若馬に対する坂路調教の応用」等、生産育成技術の向上に努めてきました。その結果、わが国の後期育成技術は飛躍的に向上し、レベルアップした競走馬の血統的資質や能力を十分に引き出すことができるようになっています。
 最近は、繁殖牝馬の受胎率向上に関する研究を応用した「若馬に対するライトコントロール法の応用」や効率的な栄養摂取を目的とした「オールインワン飼料の開発」さらには、1歳市場で購買した馬の「四肢X線所見や内視鏡検査と競走成績との関連」に関して抽せん馬時代から積み重ねてきた研究をとりまとめ、購買者がセリでレポジトリー情報を活用するための参考となる研究にも取組んでいます。後期育成に関する研究は1歳市場で購買した80頭程度の育成馬と生産した10頭以内のJRAホームブレッドを活用しています。

育成馬購買にいたるまで
 JRAが1歳市場で購買する馬は、育成研究、技術開発や人材養成を行ううえで、育成期間に順調に調教を行うことができることが必要です。購買に際しては、発育の状態が良好で、大きな損徴や疾病がなく、アスリートとして適切な動きをする馬を選別するようにしています。

1) 購買検査
 JRA育成馬の購買は複数名のチームで実施しています。チームには、競走馬の臨床経験が豊富な獣医・装蹄職員が含まれており、お互いに意見交換を行いながら候補馬を選定します。購買検査では、まず外貌を観察します。その際、蹄の状態を観察することができるよう、砂や芝生の上ではなく、平坦な場所で実施します。その後、馬の動きを観察するため、前望や後望から常歩で歩様を確認します。

2 せり会場での歩様検査

 一般的なセリに上場される1歳馬は、約2ヶ月間、十分な常歩運動を行うことで体を作ります。人手をかけずに体力をつけるためには、ウォーキングマシンでの運動は効果的です。しかし、セリで馬をよく見せるためには、引き馬での運動が不可欠です。つまり、行儀よく躾けられており、また、人の指示によってキビキビと歩く馬は、購買者から好感を持たれるとともに、購買後も騎乗馴致へとスムーズに移行することができます。「セリ馴致」と呼ばれるこのようなコンサイニング技術は、年々向上しています。
 HBAサマーセールは5日間で1200頭以上が上場されます。一日あたり250頭程度上場されるので、セリ当日は検査をする時間が十分ありません。したがって、JRAでは、事前に5頭以上繋養しているコンサイナーに預けられた馬を事前に牧場で検査しています。半分以上にあたる約600~700頭の事前検査を行っているので、セリ当日はコンサイナーで見ていない馬を中心に、十分に時間をかけて検査しています。

2) レポジトリー検査結果の確認
 セリ会場においてすべての馬を検査した後、候補馬のレポジトリーを確認し最終的な合格馬を選定します。ここでは、JRAで行っているレポジトリーのチェックポイントについてご説明します。
X線所見は、球節、腕節、飛節などの関節内に骨片やOCDによる軟骨片が遊離していないか、また、骨膜炎などの像がないか、を確認します。これまでの調査では約10%の馬にこのような所見が見られますが、これらは新しい所見ではなく、また、ほとんどが競走能力に影響を及ぼしません。しかし、このような所見がレポジトリーで見られた場合、再度、実馬を確認し、関節の腫脹、発熱、疼痛および跛行など、症状の有無を確認します。もし、このような臨床症状が見られる場合、慎重に購買を判断する必要があります。
 前肢の近位種子骨の状態も観察します。JRAでは、線状陰影の本数やその幅、形状によって種子骨をグレード分けして判定しています。種子骨の状態と競走能力との関連はありませんが、グレードの高い馬は靭帯炎を発症するリスクが高いことも分かっているので、このような馬を購買した場合、飼養管理や調教で注意をする必要があります。

3 種子骨のグレード評価とその保有率を示す。

 安静時の上気道(ノド)内視鏡所見では、若馬は喉頭蓋が薄く小さな形状をしているのが普通です。中には、調教中、ゴロゴロという呼吸音が特徴的なDDSPを発症する馬も見られますが、ほとんどが成長に伴い良化します。もっとも注意が必要なのは、ヒーヒーという吸気時に音を発する喘鳴症と関連がある喉頭片麻痺(LH:披裂軟骨が下垂)の所見です。JRAの調査によると、健康な1歳馬のうち16%の馬がG(グレード)1以上の所見を有することがわかっており、G2までは競走成績との関連はありません。披裂軟骨がまったく動かないG3では手術が必要です。なお、G0やG1でも喘鳴症の症状を呈する馬がまれにみられますが、咽頭虚脱など特別な疾病でなければ競走能力に影響はありません。

4 左が正常な内視鏡像。右は喉頭片麻痺(LH)G1以上の所見。

5 左がG1、右がG2の所見およびその保有率を示す。吸気時に左披裂軟骨がどの程度動くかによってグレード分けを行うが、いずれも競走能力に影響はない。

6 手術が必要なG3の症例、保有率は1%未満

 完璧な体型の馬はいないのと同様、レポジトリー所見をみるとなんらかの異常がみられるものです。現在、JRAでは生まれてから成馬になるまでの経時的な種子骨やノドの発育過程を観察することにより、より詳細な調査を行っているところです。これらの成績についてはまとまり次第、さまざまな場面を活用して紹介いたします。

  (日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

2019年1月23日 (水)

子馬の発育期整形外科疾患(DOD)

No.35 (2011年7月1日号)

成長期の骨や腱などにみられる病気
 サラブレッドが最も成長する時期は、誕生してから離乳するまでの期間です。健康な子馬の誕生時の体重は50~60kgですが、離乳が行われる6ヶ月齢頃には約250kgにまで増加します。成馬になったときの体重を仮に500kgとすると、出生時には成馬の体重の10%程度でしかないのに、わずか半年間で成馬の体重の50%にまで急成長することになるのです。このような急激な成長をみせるサラブレッドの子馬の骨や腱などに、この時期に特有の疾患を引き起こすことがあり、このような疾患を総じて発育期整形外科的疾患(DOD:Developmental Orthopaedic Disease)と呼んでいます。

DODには、どんな疾患があるの?
 DODの代表的な疾患には、離断性骨軟骨症(OCD)、骨軟骨症(骨嚢胞)、骨端炎、肢軸異常、ウォブラー症候群などがあります。これらの疾病の発症要因は、まだ十分に特定されていない部分も多いが、一般的に考えられているものとして遺伝的要因、急速な成長やバランスの悪い給餌(栄養)、解剖学的な構造特性、運動の過不足、放牧地の硬さなどが挙げられます。一方、近年の研究では、遺伝との関連が強く、競走能力向上のための遺伝的選抜はDOD発症率の低下と相反するものであるため、DOD発症率は増加傾向にあるばかりでなく、撲滅することは不可能であるとさえ考えられています。したがって、飼養管理方法を適切なものとし、発症した場合は軽度のうちに適切な処置を施すことが重要と考えられています。ここでは、DODの代表的な疾患である「骨端炎」と「離断性骨軟骨症」、さらに生産者を悩ますことの多い肢軸異常の中から「クラブフット」について、その病態と発生要因、対策などについて紹介します。

骨端炎
 子馬の骨のレントゲン写真をみると、骨の両端部分には隙間が写っているのが分かります(図1)。この隙間が骨端板と呼ばれる部分で、まさに骨が成長している場所になります。この骨端板は軟骨からできているため、ストレスに弱く、過度の負荷がかかると炎症が起きてしまいます。骨端板は馬の成長に伴い、肢の下の部分から閉鎖していきますが、生後2~4ヵ月齢の子馬が最も影響を受けやすいのが管骨遠位(球節の上)の骨端板になります。この部分の骨端板に炎症が生じると、球節はスクエア(四角)状になり、歩様も硬くなり、繋が起ってきてしまいます。次第に腱の拘縮が起こると、後述するクラブフット発症の要因になるとも考えられています。有効な治療法としては抗炎症剤の投与がありますが、根本的には痛みの原因となる要因を考え、取り除くことが重要になります。また、体重増加が大きい子馬に発症しやすいことが認められているため、母馬の飼料を食べていないかどうか、あるいは放牧地の硬さや放牧時間などをもう一度、見直してみる必要があります(図2)。

1_7 図1 球節の骨端板の位置(左写真:矢印)と骨端炎発症馬のスクエア状の球節(右写真)。
レントゲンで透けて見える骨端板は骨が盛んに成長している大事な部分であり、ストレスに弱い部分でもある。

2_5 図2 母馬について走り回る子馬
活発な母馬について走り回る子馬の運動量は母馬以上になり、骨端板に炎症を起こすこともある。

離断性骨軟骨症(OCD:Osteochondrosis Dissecans)
 OCDは関節軟骨の発育過程の異常で壊死した骨軟骨片が剥離するために生じる病変です。飛節や膝関節や肩甲関節、球節はこの疾患の好発部位となります(図3)。飛節部のOCDは軟腫や跛行の原因となることもあります。しかし、臨床症状がない場合は手術の必要はなく、大きな骨片は関節鏡手術により除去することで予後は良好です。大抵の馬は、その成長過程のある時期に、一つあるいは複数のOCDを持っている可能性があり、多くの場合は競走能力には影響がないといわれています。飼養者はOCDの存在部位や大きさ、調教や競走において問題につながる可能性があるのかどうかなどの情報を予め知っておくことが重要であると思われます。

3_3 図3 飛節関節内の脛骨中間稜に認めたOCD症例

12カ月齢の定期レントゲン検査で発見したOCD病変をCTスキャン検査で3次元解析すると、小さな骨片が関節内に遊離しかけている様子が確認できる。

クラブフット
 クラブフットとは、後天的に深屈腱が拘縮することによって蹄関節が屈曲した状態で、外見上ゴルフクラブのように見えることから、このような名称で呼ばれている肢軸異常の1つです。生後3ヶ月齢ころの子馬に多く発症し、特徴的な肢軸の前方破折、蹄冠部の膨隆、蹄尖部の凹湾、蹄輪幅の増大や正常蹄との蹄角度の差などの症状により4段階にグレード分けされています(図4)。

4_2 図4 クラブフットのグレード(Dr. Reddenの分類から)
グレード1…蹄角度は、正常な対側肢よりも3~5度高い。蹄冠部の特徴的な膨隆は冠骨と蹄骨の間の部分的な脱臼に起因する。
グレード2…蹄角度は、正常な対側肢よりも5~8度高い。蹄踵部に幅の広い蹄輪幅を認める。通常の削蹄により蹄踵が接地しなくなる。
グレード3…蹄尖部の凹湾。蹄輪幅は蹄踵部で2倍。レントゲン画像上、蹄骨辺縁のリッピングが認められる。
グレード4…蹄壁は重度に凹湾し、蹄角度は80度以上となる。蹄冠の位置は踵や蹄尖と同じとなり、蹄底の膨隆を認められる。レントゲン画像上、蹄骨は石灰化の進行により円形に変形し、ローテーションも起こる。


 原因としては「疼痛」が挙げられています。子馬は骨や筋肉が未発達なため、上腕、肩部、球節あるいは蹄などに痛みがあると、これを和らげるために筋肉を緊張させます。特に球節の骨端炎や蹄内部に疼痛がある場合、負重を避けるために関節を屈曲させ、その結果、深屈腱支持靭帯が弛緩します。この状態が一定期間続くと、深屈腱支持靭帯の伸展する機能が低下し、廃用萎縮の状態となり、疼痛が消失しても深屈腱支持靭帯の拘縮が残り、クラブフットを発症すると考えられています。
 一方で、必ずしも疼痛を伴わずにクラブフットを発症することもあることから、疼痛以外の原因もいくつか考えられます。たとえば、採食姿勢もそのひとつです。子馬の四肢は首の長さに比較して長いため、放牧地で牧草を食べる時には、極端に大きく前肢を前後に開く姿勢をとる様子が頻繁に認められます(図5)。この時、後ろに引いた蹄の重心は前方に移動することから、蹄尖部は加重により蹄がつぶれ、蹄踵部は加重が軽減することにより蹄が伸びやすくなり、これが蹄壁角度の増加を助長すると考えられます。どちらの肢を前に出すかは子馬ごとに癖があることが調査の結果分かってきました。1日の大半を放牧地で過ごす子馬の採草姿勢とクラブフット発症との関連性が解明されつつあります。

5 図5 子馬の採食姿勢
子馬の四肢は首の長さに比較して長いため、前後に大きく開いて採食する。どちらの肢を前に出すかは馬によって癖があり、常に後ろに引かれている蹄の重心は前方に移動し、蹄角度が増加する一要因になると考えられる。

軽種馬生産・育成技術の向上を目指して
 現在、JRA 日高育成牧場では、軽種馬生産や育成管理技術の向上を目指して、軽種馬生産者、獣医師、装蹄師、栄養管理者が情報交換しながらDODや肢勢異常に関する調査研究に取り組んでいます。これらから得られる成績は研修会などの場で紹介していきたいと思います。


(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 佐藤文夫)

2019年1月21日 (月)

BTCと軽種馬育成調教場-BTC20周年によせて-

No.34 (2011年6月15日号)

 日高育成牧場の敷地内にある軽種馬育成調教場(以下、調教場)の管理運営を行っている軽種馬育成調教センター(BTC)は、本年20周年を向かえました。この間BTCは、さまざまな観点から「強い馬づくり」を支援する事業を展開し発展してきました。今回は、調教場の概要とBTCの事業について紹介いたします。

多種多様な馬場とその特性
 バラエティに富んだ調教が行えるよう多種多様な馬場(表1)をそろえ、調教場を利用する育成者の創意工夫によりさまざまな調教を施すことが可能となっています。いずれの馬場も、定期的な硬度調査を実施し適切な管理によって硬度維持に努めるとともに、砂厚調整や整地転圧などの日常管理を入念に行っています。また、開場以来の利用頭数は年々増加傾向にあり(図1)、今では日高東部地区の競走馬の育成場として大きな地位を築くまでにいたっています。

表11_6

2_4

図1 開場以来、調教場の利用頭数は年々増加している

育成調教技術者養成研修事業
 強い馬を育成するには、確かな技術を持った騎乗技術者が不可欠です。このためBTCでは、こうした騎乗技術者を養成するための研修事業も行っています。研修期間は4月からの1年間、全国各地から性別、乗馬経験を問わず30歳未満の人を募集、選抜し、浦河の日高事業所において全寮制で行っています。研修生は、馬への近づき方、引き方などの基本動作の教育からはじめ、やがて厩舎作業や馬取扱い全般にかかわることを学びます。また、馬という動物についての知識を学ぶ学科は、馬体の各名称などから病気の知識などの衛生管理、牧草や繁殖についての基礎知識にまでいたります。馬の騎乗に関しては一般的な基本馬術からはじめますが、走路騎乗が始まると、教官が併走しながら指示を与える方法で騎乗技術を指導しています(写真1)。また、研修の後半ではJRA育成馬のブレーキングや初期調教なども経験し、研修修了前にはハロン15秒程度のスピード調教が出来る騎乗技術を習得します。現在は女子3名を含む29期生21名が研修中ですが、育成牧場に就職してから即戦力として活躍することはもちろん、やがては生産地の牧場等で技術的中核として働く人材となることを期待しています。

3_2写真1 研修生の騎乗訓練

軽種馬の競走能力の向上等に関する調査研究
 BTCでは「強い馬づくり」の一環として、軽種馬診療所において「運動科学に関する調査研究」および「育成期のトレーニング障害に関する調査」等を中心に調査研究を行っています。「運動科学に関する調査研究」では、育成馬のトレーニングを科学的に管理するため、人のスポーツ医学を応用したトレーニングの効果判定やトレーニングによる馬体の生理機能の変化について調査を実施してきました。たとえば、馬の走行中の心拍数や運動後の血中乳酸値を調査することで馬の運動能力がどのように向上していくかを明らかにし、さらに様々な馬場(グラスvsウッドチップvs砂、平坦vs坂路)が馬に与える負担度を明らかにし、育成者の皆さんがトレーニングメニューを作成する上での参考にしていただいています。また、「育成期のトレーニング障害に関する調査」では、調教場利用馬の診療及び各種検査から、トレーニングに伴う疾病の発生状況や異常所見が将来の競走成績にどのような影響を与えるかについて調査を実施しています。その結果、育成馬に発生する骨疾患の多くは、筋腱付着部(腱や靭帯が骨と付着している部位)の障害が因子となって発生していること、さらに近年はトレーニング強度の増加により、四肢の骨折や屈腱炎が増加傾向にあること、などを報告しています。

牧草と草地土壌分析事業
 生産牧場等に対して良質な牧草生産の促進と飼養管理技術の指導や普及に役立てるため、牧草や草地土壌の成分分析を実施し、その結果をフィードバックする事業も行っています(写真2)。近年、昼夜放牧を実施する牧場も増加していることから、放牧地の改良や採食量が増加する牧草の栄養価を把握し飼料給与方法に反映させる必要性が増しています。こうした馬づくりの基本を点検するうえで、土壌や牧草の成分を定期的なチェックは欠くことができません。

4写真2
 
 今後ともBTCのさまざまな事業をご理解いただき活用いただければ幸いです。

(日高育成牧場 総務課  長澤 れんり)
(BTC日高事業所 次長  早川 聡)

2019年1月18日 (金)

当歳馬の昼夜放牧に向けて

No.33 (2011年6月1日号)

 1年で最も忙しい出産および交配シーズンも終盤にさしかかり、一息つく間もなく1番牧草の収穫時期を迎えようとしています。5月に入ると雨が降っても気温が極端に下がることもなく、この時期から昼夜放牧を開始する方々も多いのではないでしょうか?昼放牧から昼夜放牧へと飼養管理方法を変化させることは、馬の健康状態や成長に大きな影響を与えます。特に、成長期にある当歳馬にとって、この変化は大きな意味を持ちます。今号では当歳馬の放牧管理、特に昼夜放牧実施にあたってのポイントについて紹介します。

昼夜放牧実施のポイント
 放牧の目的としては、主に「体力の養成」「栄養供給」「群れへの順応」が挙げられます。

 「体力」といっても様々な指標がありますが、「骨」や「屈腱線維」に関しては、放牧群と非放牧群との比較による調査において、放牧群の方が強化されるという結果が示すように、放牧によって馬を鍛えること、つまり「体力を養成」させるという効果があります。当歳時の自由運動、つまり仲間と遊びながら、走り回り、飛び跳ねるなどの適度な運動負荷は、骨や腱・靭帯に刺激が加わり、それらの組織を成長させ、競走馬として不可欠な筋骨格系を発達させる効果が期待されます。
 「放牧地」と聞いて真っ先に想像されるのは、馬の主食である「青草」の摂取による「栄養供給の場所」ではないでしょうか?良質の放牧地には、適切な発育に欠くことのできない栄養およびミネラルバランスを満たしている牧草が生育しています。昼夜放牧開始後は1日の大半を放牧地で過ごすために、良質の青草を摂取することは、草食動物である馬にとって、何よりも重要であることはいうまでもありません。
 「群れへの順応」も競走馬として非常に重要な要素になります。高い走能力を有していても、レース中に馬群の中で受けるストレスによって十分にその能力を発揮できないことも少なくありません。この群れへの順応は、多頭数での放牧によって養成が期待されます。

1_4 放牧の目的は「体力養成」「栄養供給」「群れへの順応」である。


昼夜放牧の利点
 昼放牧のみでは、朝から夕方まで長くても10~12時間程度の放牧時間にとどまります。一方、昼夜放牧を実施することによって、放牧時間を22時間にまで延長することが可能となります。シェルターのような避難小屋のある放牧地では、24時間放牧も可能になります。また、大きな木は雨を避けることができ、さらに日陰を生みだすために、シェルターの代わりになります。昼夜放牧は馬にとって自然に近い状態でもあり、昼放牧よりも青草を十分に摂取することができ、さらに移動距離を約2倍に増加させることができるため(図1)、非常に有用です。
 このように、昼夜放牧は前述の放牧の目的を最大限に満たすことができます。昼夜放牧された馬は、十分な運動と栄養価の高い青草を摂取することによって、競走馬として不可欠な基礎体力が養成されます。

2_3 図1.昼放牧と昼夜放牧における当歳馬の移動距離の比較


昼夜放牧の実施に際しての注意点
 放牧前の子馬の検温は体調を把握する上で重要であり、体調によっては放牧を控える必要があります。体調に異常を認めない場合には、夏期の多少の雨は気にすることなく、昼夜放牧が可能です。夜間放牧に慣れていない馬だけで放牧すると、野生動物や、車などの人工的な音によって馬が驚き、ケガの原因となることも少なくありません。そのようなトラブルを避けるためにも、親子の昼夜放牧を実施する場合には、母馬はそれ以前に夜間放牧を経験し、十分に落ち着いている必要があります。昼夜放牧に必要な放牧地の広さは、親子1組に対して1ヘクタールとされています。気候に関しては、雨よりも夏期の炎天下での放牧に気を付けなければなりません。特に、日陰のない放牧地では、日中の炎天下の放牧は控えたほうが良いでしょう。また、アブなどの吸血昆虫の発生時にも馬へのストレスは大きいので注意が必要です。
 日高地方においては、1年間のうち7~8ヶ月間は、効果的な昼夜放牧が可能であると考えられます。放牧地が雪で覆われる厳冬期には、放牧地での移動距離は大幅に減少するために、「体力の養成」という意味での放牧はあまり意味がないものとなってしまいます。そのために、冬期に十分量の常歩を課すには、ウォーキングマシンの利用が有効な方法となります。


当歳馬はいつから昼夜放牧を開始するべきか?
 心身ともに充実した競走馬をつくるために、肉体的および精神的に「鍛える」という言葉をよく耳にします。昼夜放牧を行う目的も「労力および経費の削減」と同じくらい「馬を鍛える」ためと考えられています。一方、出生直後は非常に虚弱な当歳馬をいつから昼夜放牧を開始し、鍛えるべきかという疑問も残っています。
 子馬は2~3ヶ月齢までは、十分量の免疫を産生することはできないために、成馬と比べて十分な抵抗力を有していません。また、2ヶ月齢未満では、大きな放牧地での長時間放牧によってDOD発症の可能性が高くなるという報告もあります。これは、骨の発達は胎子期にあたる出生3ヶ月前から盛んであるのに対して、筋肉の発達は生後2ヶ月齢以降から盛んになるという報告(図2)に裏付けられます。また、我々の調査でも、成馬では屈腱よりも小さな繋靭帯が、6ヶ月齢ごろまでは屈腱が未発達なため繋靭帯の方が大きく、特に3ヶ月齢までの子馬にこの傾向が顕著であるという結果が得られたことから、筋肉の発達が盛んになる前の2~3ヶ月齢までの子馬は、体重こそ軽いものの骨や靭帯にかかる負担は成馬以上であることも一因と考えられます。つまり、この時期は肉体的に未成熟と捉えるべきなのかもしれません。また、1~3ヶ月齢時には繋が起ちやすく、さらにクラブフットが発症しやすいということも、これらの骨、筋肉、腱および靭帯の発達のバランスと関連があるのかもしれません。

3図2.骨と筋肉の発達の盛んな時期は異なる

 一方、放牧地での移動距離という観点から見ると、図1に示すように昼放牧と昼夜放牧との違いはあるものの、3ヶ月齢以降に移動距離が増加していることが分かります。
以上のことから2~3ヶ月齢までの子馬は、成馬と比べて十分な抵抗力および体力を有していないために、早くても1.5ヶ月齢が過ぎた頃から、子馬の状態によっては3ヶ月齢以降に昼夜放牧を開始した方が良い場合もあります。

 今後も、「強い馬づくり」に役立つように、さらなる調査・研究を行っていきたいと思っています。

(日高育成牧場 専門役 頃末憲治)

2019年1月15日 (火)

ロドコッカス・エクイ感染症対策

No.32 (2011年5月15日号)

 繁殖シーズンも後半に突入し、子馬の疾患に悩む時期になってきました。今回は1~3ヶ月齢の子馬に肺炎を起こすロドコッカス・エクイ感染症という病気について紹介いたします。この病気の原因菌であるRhodococcus. equiは広く土壌中に生息し、昔から世界各地で発生しています。北海道では1960年頃から発生が認められるようになり、今日ではごく一般的な疾病となっています。
 過去に行われた生産地を対象にした大規模な調査において、呼吸器感染症を疑われた子馬314頭を検査したところ、61.1%もの陽性率を示しました。このことから、子馬の呼吸器感染症の場合は、まずはロドコッカス・エクイ感染症を疑うべきと言えます。

発症する馬、しない馬
 子馬が感染すると、多量の菌が気管分泌液中に排出されます。この菌が気管分泌液とともに嚥下され、消化管を通って糞便中に排出されることで土壌の汚染や、感染が拡大します。ケンタッキーの牧場調査によると非発生牧場が1ha当り0.89頭の飼育密度であるのに対し、発生牧場は1.63頭と高く、飼育密度が高いと土壌汚染が進み、子馬が感染しやすくなるということが推察されています。発症には免疫状態、牧場環境など様々な因子が関与していると考えられていますが、子馬の血液中IgG濃度(飲んだ初乳量を示す指標)や母馬の糞中菌数は発症率とは明らかな相関がないという報告もあり、どのような子馬が発症するのかという点についてはまだ明らかになっていません。

乏しい症状
 症状は一般的な呼吸器疾患と同じく咳や粘液膿性(濃く緑がかった)鼻漏、発熱、体重減少、呼吸速拍などが挙げられますが、発熱以外に症状を示さないまま進行することもあります。また、感染から発症まで2週間程度の潜伏期があると言われています。そのため、早期発見には毎日の検温や注意深い観察(元気がない、横臥時間が長い、乳を吸う回数が少ないなど)が重要です。

積極的な検査を
 ロドコッカス・エクイ感染症の治療期間は約1ヶ月と長期に渡り、薬も高価なことから治療費が高額となります。しかし、発見が早いほど治療は短くすむため、症状が乏しくても早期に積極的に検査することが重要と言えます。
 発症した子馬は血液検査、胸部エコーやレントゲンなどで異常所見を認めます。しかしロドコッカス・エクイ以外の感染症でも同様の所見を示すため、ロドコッカス・エクイであるかどうかを確定するためにはさらなる検査が必要となります。血液中の抗体の有無を調べるエライザ法は採材が簡単なため広く利用されています。しかし、厳密には抗体の上昇は「これまでに感染したことがある」ことを示すもので、その時に菌がいるかどうかを診断するためには気管洗浄液による細菌培養が最も確実です(図1)。気管洗浄液は、径5mmほどのチューブを気管に通し、気管を少量の生理食塩水で洗い回収します。気管洗浄液の採取は採血ほど簡便ではないものの、鼻捻子だけで採材することができます。検査方法の選択については牧場の汚染度や治療方法、費用などとの兼ね合いもありますので、獣医師にご相談下さい。

1_2 図1 シリコンカテーテルを用いた気管洗浄液の採取

隔離パドックの注意点
 子馬が感染した場合、一般的には小パドックなどを使用して隔離しますが、ロドコッカス・エクイ感染馬を狭いパドックに放つと土壌を高濃度に汚染します。翌年、そのパドックに生まれたばかりの子馬を放すことで感染するため、非常に危険です。感染馬を放すパドックは健康な子馬と共用しない、共用する場合にはパドックに対して以下のような積極的な対策が必要となります。

汚染土壌への対策
 予防と言えばワクチンが思い浮かびますが、細胞内寄生性という特徴をもつロドコッカス・エクイにはワクチンで増強される液性免疫(抗体の作用)よりも細胞性免疫(白血球の作用)が重要であるため、ワクチンは効きにくいと考えられています。海外では市販ワクチンや高免疫血漿が有効だという報告もありますが、否定的な報告もあり、やはり広く普及されるには至っていません。
 一旦、汚染された牧場を完全に清浄化する事は困難です。日高育成牧場では、ロドコッカス・エクイに殺菌作用を示す消石灰の撒布を試みたところ(図2)、一時的に検出されなくなりましたが、2ヵ月ほどで再び検出されてしまいました。しかし、本菌は深さ0-20cmの表層に生息すると言われているため、表土を取り除いて客土を実施し、一時的にでも汚染度を下げることで子馬の感染リスクが下がると言われています。

2_2図2 パドック消毒の試み

 また、増殖源である糞便を除去する事は非常に重要です。除去した糞便中のロドコッカス・エクイは堆肥化する過程の発酵熱で十分に殺滅されます。堆肥熟成度が不十分だと放牧地にロドコッカス・エクイを撒き散らすことになるため、適切な堆肥化(水分調整と撹拌による空気混合)を行うことが重要です。

 近年はロドコッカス・エクイ感染症による死亡例は減少しているものの、治療期間が長い、治療費がかかる、環境の清浄化が困難といった点で依然注意すべき疾患であり、特に過去に発生した事のある牧場においては早期発見のための注意深い観察、そして積極的な検査、初期治療が重要です。

(日高育成牧場 生産育成研究室 村瀬晴崇)

子宮の回復と受胎率、流産率

No.31 (2011年5月1日号)

種付けの現状
 一般的に、哺乳動物は授乳期間中には発情しないものですが、馬は出産直前から卵胞が成長し始め、分娩から1週間で発情を示すという特異な動物です。これまでに行われた生産地疾病等調査によると日高管内では分娩した馬の79%が初回発情で交配されており、その受胎率は46.4%でした(2発情目以降も含めた1発情当たりの受胎率は約60%)。
 一方、欧米のサラブレッド生産に目を向けると、分娩後初回発情ではほとんど交配されないのが一般的です。種牡馬側の観点からすると、産駒数を増やすためには、受胎しにくい馬との交配を避け、受胎しやすい馬と交配するということは非常に納得いくものです。しかしサラブレッド以外の品種においては、欧米においても初回発情で交配することが一般的であり、繁殖効率を考える上で初回発情を避けるか否かということは世界的にも論争の的となっています。

子宮の回復
 初回発情において受胎率が低い原因は、子宮が分娩の損傷から回復していないことに起因しています。損傷の程度、回復の早さは馬によって異なりますが、エコー検査で子宮の大きさ、貯留液の性状や量などをみることによって推察できます。初回発情時に貯留液が残っていると受胎率が低下するという報告もあることから、日本では交配前によく子宮洗浄が行われますが、貯留液=汚い=洗浄と考えるのは必ずしも適切ではありません。子宮内貯留液は子宮内膜組織の残留や感染を示唆するものではなく、修復過程において子宮壁から滲出するものであり、正常であっても分娩後6日頃までは存在すると言われています。このことは、正常に分娩した場合において、子宮洗浄を行っても受胎率を高める事ができないという報告からも裏づけられます。

初回発情v.s.2発情目以降
 初回発情と2発情目以降では生産性にどれほどの違いがあるのでしょうか。初回発情時の交配では受胎率が低いことを述べましたが(46.4%v.s.60%)、受胎した後の流産率が高いことも問題です。具体的には、受胎確認したものの5週目の再鑑定時に胚がいなくなる早期胚死滅率が11.1%v.s.3.8%、さらにそれ以後に流産する胎子喪失率が11.0%v.s.6.2%と、2群に大きな違いがあることが分かりました。初回発情で受胎するか否かの違いは決して運ではなく、さまざまな要因が関与しています。そのため、効率の良い繁殖管理を考える上で受胎する馬としない馬の要因を精査することは重要です。

分娩後初回発情に適した条件
 生産地疾病等調査によると、初回発情で交配した場合、年齢によって交配率、受胎率に差が認められました(図1)。また、交配頭数は分娩9日後にピークに達するものの、受胎率は9日以前は50%未満なのに対し、10日以後で50%を越え(図2)、「9日以前は見送った方が良い」という一つの指標を裏付ける結果となりました。

1 図1 分娩後初回発情における年齢毎の交配率および受胎率

2

図2 分娩後初回発情における交配日別受胎率


 その他、受胎率に影響を及ぼす因子を列挙しますと、分娩月日(遅<早)、前年の状況(分娩<非分娩)、胎盤排出時間(60分以内<以上)、胎盤重量(8kg以上<以下)、分娩後日数(短い<長い)が挙げられました。
 前年の状況や胎盤排出時間、胎盤重量は子宮損傷の程度を反映しており、年齢や分娩後日数については子宮の回復度に影響していると考えられます。獣医師はエコー検査で子宮の回復具合を判断しますが、牧場現場においては後産が排出されるまでの時間や後産重量を記録しておくことで、初回発情を見送るか否かの判断材料になると考えられます。

飼養管理の重要性
 牧場の管理によって受胎率を改善できる因子としては飼養管理が挙げられます。出産時のボディコンディションスコア(以下BCS)が5以下であると同シーズンの受胎率が低い事が報告されています。このような馬は分娩後に慌ててBCSを上昇させたとしても受胎率は改善しないため、出産前からBCSを5以上に保つよう管理することが重要です。
 また、BCSと早期胚死滅率との関係も報告されています。初回受胎確認時から5週目の再鑑定時におけるBCSの変化を上昇群、維持群、低下群と区分したところ、早期胚死滅率については上昇群1.9%、維持群5.6%、低下群7.0%と関連性が認められ、胎子喪失率(再鑑定時以降に流産)についても8.0%、7.0%、13%とBCSが低下する群で高い流産率を示しました。(全体の平均は早期胚死滅率5.8%、胎子喪失率8.7%)
 また、運動は子宮回復を促すことが知られているため、初回分娩後発情での受胎率を高めるためには早期に広い放牧地へ放すことも選択肢として考えられます。

 今回は分娩後初回発情における交配について焦点を置いて紹介させていただきました。これらの成績が、多忙な繁殖シーズンにおける効率の良い繁殖管理の一助になれば幸いです。

(日高育成牧場 生産育成研究室 村瀬晴崇)

2019年1月11日 (金)

交配・妊娠期の注意点

No.29 (2011年4月1日号)

本格的な繁殖シーズン
 馬の生産地は非常に忙しい季節に突入しています。分娩の監視や対応、新生子馬の管理などで十分な睡眠が取れない中、繁殖牝馬の検査や交配などが絶え間なく行われています。このような時こそ、できる事であれば一回の交配で効率的に受胎させたいものです。今回は、妊娠成立のメカニズムから見た交配前後の管理法について考えてみましょう。

養分要求量を満たす栄養補給
 一般の哺乳動物は、泌乳している時期には妊娠しないような生理機能が働きますが、馬は「お乳を出しながら妊娠することができる」という特徴があります。私たちがこの馬特有のメカニズムを利用して生産していることには、意外と気がつかないものです。繁殖牝馬も泌乳期は乳の合成分泌に養分を必要とし、1年1産を目指すためには分娩後2ヶ月間に1日当たり30メガカロリーの養分を摂取させる必要があります(図1)。繁殖牝馬の泌乳量が最大となる時期に、泌乳と妊娠のために必要な養分を外からしっかりと補給するように管理することが、サラブレッドの効率的な生産を実現する最大のポイントです。妊娠期にボディコンディションスコアを6.0-6.5に維持し、分娩後にも肋骨が見えるようなことがないように管理することが有効となります。

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図1 分娩後の繁殖牝馬の養分要求量は交配を行う時期に最大となる


分娩後初回発情の交配はできる限り見送る
 2004-2006年に実施された生産地疾病等調査研究によれば、日高地方では79%の馬が分娩後初回発情で交配され、その受胎率は46%であり、13歳以上に限れば受胎率37%とさらに低下します。一方、ケンタッキー州のサラブレッド生産の一回交配当たりの受胎率が約60%という高い数字となる背景には、分娩後初回発情での交配が20%以下に限られ、ほとんどが2回目以降の発情で交配されていることに関係しています。また、分娩後の子宮洗浄はわずか数%の実施率であり、日本のように分娩後8日目から検査、子宮洗浄、治療を数回繰り返し行うことはせず、交配を見送り、その間の自浄作用によって子宮を生理的に回復させることが費用対効果からみても有益であると考えられています。その他にも、分娩後初回発情での交配では、1)妊娠期の損耗率(胚死滅、流産など)が2倍以上高く、5頭に1頭は出産に至らないという結果が示されていること、2)出生後10日頃の体力の弱い子馬にウイルスや細菌が感染する温床となること、3)交配に関わる費用や労働力(3,4回の検査診療費、輸送費、人件費など)が大きいこと、4)種牡馬の交配回数が増加し、結果として受胎率の低下を招くこと、などの問題があります。分娩後初回発情での交配はできる限り見送り、削減された経費を馬の養分の補給に当てることがトータルで有効となります。また、2回目以降の発情の発見に力を注ぐことが重要となります。

排卵誘発剤の使用
 排卵誘発剤(促進剤)は適切な時期に交配を行う上で有効な薬剤であるといえます。馬の排卵誘発剤にはいくつか種類がありますが、hCGというヒト由来のホルモン剤は、安価で汎用性の高い薬剤であり、馬の排卵時期をコントロールする上で有用です。hCG投与により双子と診断される割合も増加しますが、適切な処置を行えばむしろ黄体機能が増強され受胎にプラスとなります。hCG投与群は、非投与群と比べて、統計的に有意に受胎率が向上するという研究結果が多数報告されており、排卵誘発剤の使用は馬の効率的な繁殖管理に有効です。1シーズンに3回以上使用すると、投与効果が減弱するといわれており、獣医師と相談しながら使用することが推奨されます。

エコー検査による5週目妊娠鑑定
 受精後16日までの胚は子宮の中を移動する不安定な状態にあり、馬の着床が始まるのは受精後38日頃です。2006-2009年の生産地疾病等調査研究成績では、日高地方で35日以内に早期胚死滅と診断される率は6%であることが報告されました。また、その後流産などの原因により出生まで至らなかった率は、約15%にも達することが報告されました。したがって、軽種馬生産では妊娠期の損耗を軽減することが生産性向上への近道であると考えられます。早期胚死滅を予防するためには、上述の3項目を実施することが非常に有効です。しかし、様々な要因による早期胚死滅を完全にゼロに抑えることは困難であると結論づけられており、再交配が可能な時期に胚死滅を見つけ出すことが重要であると考えられます。妊娠4週以降には、エコーを用いて胚の大きさ、形、心拍などを見ることにより、正確に胚の発育状態を判断することができます。胚死滅と診断されても、その後高い確率で再妊娠することが可能であることから、5週目のエコー再検査を実施することが強く推奨されます。

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(日高育成牧場 生産育成研究室 室長 南保泰雄)

2019年1月 9日 (水)

繁殖牝馬に対するウォーキング・マシンの効果とストレスについて

No.28 (2011年3月15日号)

 3月に入り分娩シーズン真っ只中となりましたが、読者の皆様におかれましては妊娠後期の繁殖牝馬管理をどのようにされてますでしょうか?いくら経験豊かなホースマンであっても、子馬の出産時期は非常にストレスがかかるものだと思います。特に難産などは、一年積み重ねてきた苦労が水の泡となるだけでなく、最悪の場合は繁殖牝馬を淘汰しなければいけない可能性も出てきます。そうならないためにも、繁殖牝馬の出産前管理は非常に重要となります。
 さて、今回はその難産を含めた繁殖疾病を予防するために有効となる“出産前の運動”、特にウォーキング・マシン(以下、WM)を利用した分娩前管理の有効性について紹介したいと思います。

1 〔図①〕WM中の繁殖牝馬:当場では分娩約1か月前より4~5kmの速度で20~30分程度実施

妊娠馬の運動の重要性
 妊娠後期の適度な運動は、心血管系の機能維持に効果的です。すなわち、子宮動脈の血流を増加させ、胎子への酸素供給量を増大させるために、低酸素脳症に起因する虚弱子の誕生リスクを軽減させられると考えられています。その他、ヒトでも述べられているような子宮内の胎子スペースを確保するための肥満(体重の過度な増加と脂肪の蓄積)予防、さらに分娩に耐えうる健康状態および体力維持にも効果的であり、これらが難産を予防すると考えられています。その他、ヒトでは妊娠末期の適度な運動によって生じる努力性の呼吸が、出産時の呼吸状態に類似していることからも、適度な運動が推奨されているようです。
 また、ウマでは胎子の出生時体重の60%程度が妊娠後期の3ヶ月間に増体していることからも、妊娠後期の運動は母体の難産予防のみならず、急激に成長する胎子の正常な発育のためにも不可欠と考えられます。

妊娠馬の運動不足のサイン
 妊娠後期、特に分娩1~2週間前に運動不足に陥ると、下肢部や下腹部(乳房前方から帯径にかけて)に浮腫を認めることがあります。このような浮腫を認めた馬を観察していると、放牧地や馬房でも一箇所に駐立している場合が多いように思われます。この場合には、WMや引き馬を行って循環状態を改善させる必要があります。
 一般的に、1~2haほどの青草が茂った放牧地で放牧を行っていれば、運動不足になることはないと考えられています。しかしながら、北海道の冬は雪で覆われ、青草どころか放牧地内での歩行すら困難となるために、強制的な運動が不可欠であると考えられています。理想を言えば馬の息づかいを感じながらの引き運動が最適なのでしょうが、効率を考えた場合にはWMの利用に勝るものはないのでしょう。
 実際、WMが普及し、妊娠後期の運動として使用されるようになってから、難産が減少したとの印象を持っている生産者も多いようです。

妊娠と運動の関連性
 ヒトでは妊娠後期の過剰な運動は、子宮血流量を過度に増加させ、それに伴う胎児の心拍数増加が胎児にストレスを与える可能性が示唆されています。一方、この胎児の心拍数の増加は一時的な変化であるために、胎児への影響は無いとも考えられています。
 ウマにおいても、妊娠後期の運動負荷に対する母馬および胎子のストレスに関する研究が行われています。6%の傾斜のトレッドミル上で、360m/分の速歩を3分間実施した実験では、胎子の心拍数は運動前後で有意な変化は無く、ストレスは受けていないものと結論づけられています。また、母馬の心拍数は安静時よりも上昇したものの、出産6ヶ月後に実施した同様の運動負荷試験と比較すると、その上昇程度は有意に低く、さらに、ストレスの指標となる血中コルチゾル濃度も出産後より低いことが示されています。これらのことから、妊娠馬は心血管系の機能が通常より高まっており、さらにストレスに対する閾値も通常より高まっていると示唆されます。これは、ヒトでも妊娠期には心血管系や呼吸器系、さらには全身の代謝活動が高まるという報告と類似しているようです。

WMによる運動負荷の程度は?
 前述の研究でのトレッドミルによる運動負荷での最大心拍数は160回/分であったために、この程度の運動負荷であれば母体および胎子に対してストレスはないと考えられています。当場で実施しているWMによる運動は、4~5km/hの速度で、20~30分間実施しています。この時の最大心拍数は50~60回/分程度であるために、WMによる常歩運動は、ストレスをかけることなく、適度の運動であると考えています。
 しかしながら、繁殖牝馬にストレスをかけることは避けなければならないので、WMに入れる前の歩様等のチェックは不可欠です。

2 〔図②〕心拍計を装着した繁殖牝馬(フジティアス 父 フジキセキ)

3[図③]WM中の繁殖牝馬の心拍数データ
WM中の心拍数は安静時(約40回/分)より15~20拍程度上昇(55~60回/分)している(時速5km×30分実施のデータ)。


 ヒトでは、妊娠中に運動を行うことによって、出生後の新生児は周囲の変化に対してより敏感でありながらも、刺激に対して穏やかで落ち着いているとも報告されています。ウマにおいても、急激に胎子が成長する妊娠後期の3ヶ月間からすでに馴致は始まっているのかもしれませんね。

(日高育成牧場 業務課 土屋 武)

2019年1月 7日 (月)

育成馬用オリジナル飼料の導入

No.27 (2011年3月1日号)

 近年、養分要求量を充足させた飼料給与の重要性が認識されるようになり、軽種馬の生産・育成の各牧場、東西トレーニング・センターにおいては各厩舎が独自に配合したプライベートブランド飼料を導入するケースがみられるようになってきました。日高育成牧場においても、こうした飼料の有効性を実際に検証するため、育成馬に対し後期育成用のオールインワン飼料として独自に開発した「JRAオリジナル10」を給与しています。


 自家製配合飼料の利点として、
① 飼料給与計画に基づいた適正な栄養管理を実施しやすく、また全体の栄養バランスを損なうことなく運動量の違いによる調整が可能である。
② 飼料配合のシンプル化により作業効率を高め、給餌者間での給与量や各飼料の給与配分のバラつきをなくすことができる。
③ シーズン毎の継続的な栄養管理の実施が可能となる
などがあげられます。

オリジナル飼料の試作
 JRA育成馬の濃厚飼料はこれまで、軽種馬飼養標準に基づき、エネルギーやタンパク質、ビタミンやミネラル等の栄養素に過不足が生じないように、エンバク、エースレーションN0.2、脱脂大豆等を飼付け時に配合し給与してきました。しかしながら、後期育成調教における運動強度が従来に比べ増加するとともに、よりきめ細やかな馬体コンディションを維持するための飼料給与管理が要求されるようになってきました。そこで、必要栄要素が過不足なくバランスよく配合されているJRAオリジナル飼料を作成することとしました。作成の際のポイントは、「運動強度が強くなった際に見られる食欲不振や濃厚飼料多給による諸問題に対応した、嗜好性がよく繊維質を十分含んだ飼料であること」でした。
試作品の嗜好性試験を重ね、出来上がったのが「JRAオリジナル08」でした。その特色は、原材料として既存の配合飼料では使われていないビートパルプを使用したことで繊維質を十分に含んでいること、ヒマワリの種子などを入れることで脂肪含量を上げ、米油等の添加が不要となることなど必要栄要素が過不足なくバランスよく配合されていることです。
 この「JRAオリジナル08」を08年と09年購買馬の2世代の育成馬全頭に給与しました。それまでの濃厚飼料内容と比較して、総量は概ね同量でしたが「JRAオリジナル08」およびエンバクの2種類とシンプルになり、配合ムラがなく馬の状態にあわせた給与が可能となりました。しかし、調教強度が上がってくる2~3月になると、特に牝馬において精神的あるいは肉体的ストレス増によると思われる食不振が高率でみられるようになりました。

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JRAオリジナル10

嗜好性の改善
 そこで、さらに嗜好性について検討し改良することとしました。「JRAオリジナル08」の残し方は3つのタイプがあり、JRAオリジナルそのものを残す、ペレットのみを残す、ペレットを粉々にして残す、といったものでした。その中で特に後者の2つのペレットを残すタイプが多く見られました。嗜好性が低下した原因は、ペレットに栄養素(特にミネラル)を詰め込みすぎたことによって、味付けが濃くなり、苦味がでてしまったのではないかと考えられました。そこで、ペレットに含まれる主な苦味成分であるマグネシウムと亜鉛の量を問題ない範囲で減少させ、さらに成分はそのままでペレット比率を増すことによって全体の味を薄くするといった改良を加えました。それが、現在の「JRAオリジナル10」です。10年購買馬全頭に対し昨夏の入厩時より給与していますが、現在のところ非常に嗜好性が良く、ほとんど残す馬は見当たりません。調教強度が上がってくる2月以降も注意深く見守っていきたいと思います。

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4_3 JRAオリジナル10の成分表


 JRA日高育成牧場として今後は、繁殖牝馬や前期、中期育成馬用のオールインワン飼料を作成し、生産・育成界に栄養バランスの優れたオールインワン飼料を提示することで、育成技術のレベルアップに寄与することができればと考えています。


(日高育成牧場 業務課 大村 昂也)