後期育成 Feed

2019年1月 2日 (水)

育成馬の胃潰瘍

No.25 (2011年2月1日号)

 今回は、日高および宮崎育成牧場で育成し昨年売却したJRA育成馬に対して行った胃潰瘍に関する調査について紹介したいと思います。

馬の胃潰瘍について
 馬の胃はヒトとは異なり、ヒトの食道と胃が一緒になった構造をしています。ヒトの食道にあたる部位が「無腺部」、ヒトの胃にあたる部位が「腺部」で、その間にのこぎりの歯のような形をした「ヒダ状縁」という境目があります。「腺部」で作られた胃酸が「無線部」や「ヒダ状縁」の粘膜に傷害を与えることで潰瘍になると言われており、ヒトの「逆流性食道炎」に近い病態と言えます。馬は本来放牧地でほぼ一日中草を食べているのが自然な状態ですが、競走馬として狭い馬房内に閉じ込められ濃厚飼料を与えられていると、胃酸分泌が増加し潰瘍ができるとされています。胃潰瘍の症状は多様で、炎症のみで上皮は正常な状態から、壊死を伴う深部潰瘍まで認められます。穿孔(せんこう:あなが開くこと)すると死に至ることもあります。
 競走馬の70~90%が胃潰瘍にかかっていることが知られていますが、育成馬についての研究はあまり進んでいませんでした。近年、施設の改良や技術の向上により、育成期においても競走期に近い運動が負荷されるようになり、育成期でもある程度の馬は胃潰瘍を発症している可能性が疑われるため、今回調査を行うことにしました。
 一方、競走馬の胃潰瘍の治療や予防に使われる薬剤には、胃酸を中和する制酸剤、粘膜を保護するスクラルファート、人体薬の「ガスター10」で有名なH2ブロッカーなどがありますが、海外では主にオメプラゾールという薬剤(商品名ガストロガード®、図1)が使用され効果が高いことが知られています。
 そこで、我々は2008年に生まれ、2009年7月から2010年の4月までJRA日高および宮崎育成牧場で育成された育成馬および研究馬85頭(雄42頭・雌43頭)を使って3つの調査を実施しました。

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育成馬の胃潰瘍発症状況
 2010年2月に内視鏡で胃の中を検査した結果、27.1%(85頭中23頭)の馬が胃潰瘍を発症していました。胃潰瘍の程度(0~3で数字が大きいほど程度が悪い:図2)は、スコア2が13%(23頭中3頭)、スコア1が87%(23頭中20頭)で、胃潰瘍の発生に雌雄差はありませんでした。
 競走馬について行われた同様の調査では、76.9%の馬が胃潰瘍を発症しており、程度はスコア3が44%、スコア2が32%、スコア1が24%であったと報告されています。
 今回の調査から、競走馬ほどではないが、育成馬も3割程度が胃潰瘍を発症していることが明らかとなりました。また、競走馬と比較して、胃潰瘍の程度は軽いことがわかりました(図3)。

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オメプラゾールの胃潰瘍予防効果
 2月の内視鏡検査で胃潰瘍を発症していなかった馬を投薬群および対照群の2群に分け、投薬群にはオメプラゾール製剤のガストロガード®1/4本を28日間投与しました。これらの馬に対して通常どおり調教を実施し(F16まで)、3月~4月に再度内視鏡検査を実施したところ、胃潰瘍発症率が投薬群では3.6%(28頭中1頭)であったのに対し、対照群では38.7%(31頭中12頭)と胃潰瘍の発症を10分の1に抑えることができました。
 競走馬について行われた同様の調査では、胃潰瘍発症率が投薬群では21%であったのに対し、対照群では84%であり胃潰瘍の発症を4分の1に抑えることができたと報告されています。
 今回の調査から、競走馬と同等かそれ以上に、オメプラゾールの投与は育成馬の胃潰瘍の予防に効果があることが明らかとなりました(図4)。

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オメプラゾールの胃潰瘍治療効果
 2月の内視鏡検査で胃潰瘍を発症していた馬18頭を治療群として、オメプラゾール製剤のガストロガード®1本を28日間投与しました。通常どおり調教を実施し(F16まで)、3月に再度内視鏡検査を実施したところ、18頭の馬の胃潰瘍はすべて治癒していました。
競走馬について行われた同様の調査では、胃潰瘍を発症している75頭について治療を行ったところ、治療後の内視鏡検査において58頭が治癒し、残りの17頭もスコアが改善されたと報告されています。
 今回の調査から、競走馬と同等かそれ以上に、オメプラゾールの投与は育成馬の胃潰瘍の治療に効果があることが確認されました(図5)。

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 最近の研究では、胃潰瘍を発症していない馬と発症している馬をトレッドミル上で運動させた場合、発症していない馬の方が最大酸素摂取量が有意に高かったという報告もあります。あくまでもトレッドミル上の運動でのデータですが、実際のトレーニングでも胃潰瘍が発症していない状態で調教を行った方が効果が上がる可能性が示されています。今後、競走馬だけでなく、育成馬についても胃潰瘍対策を考えていかなくてはならないのかもしれません。

®ガストロガードはアストラゼネカ社の所有登録商標

(日高育成牧場 業務係長 遠藤 祥郎)

2018年12月28日 (金)

育成馬へのライトコントロール

No.23 (2010年12月15日号)

 ライトコントロールというと、皆様は何を思い浮かべるでしょうか?人では睡眠障害の治療などにも用いられている技術ですが、近年、生産地では牝馬の繁殖シーズンにおける発情誘起のための有用な管理技術として広く普及されています。そして、育成馬においても同法が応用されるようになってきており、冬の飼養管理の一部として定着しつつあるようです。今回は、育成馬へのライトコントロール法(図1)の効果や方法などについて説明したいと思います。

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図1:ライトコントロール法を行っている育成馬房

ライトコントロール法って何?
 まず、ライトコントロール法とはどのようなものでしょうか?これは馬が長日性季節繁殖動物であり、春になると卵巣機能が活発となり、発情期が回帰するようになることを利用した飼養管理技術です。春になると・・・と書きましたが、馬は何によって春が来たことを感じるのでしょう?実は、馬は“光”によって季節を感じているのです。冬から春になるにつれ、昼間の時間が長くなりますが、馬はこの日照時間が長くなることを“目”から感じて季節を判断しています。そこで考え出されたのが、この「ライトコントロール法」です。まだ日照時間の短い冬期(12月末~3月初旬)の夕方と朝に、春と同様の日照時間になるようにライトを点灯します。そうすることで、「視床下部」という神経器官からのホルモン分泌が徐々に促進され、さらに下垂体から分泌される黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進することにより、卵胞発育や排卵が起こるようになります。発情周期が回帰すると、卵巣から分泌されるホルモンによる抑制が適切に働き、約3週間の周期的な発情を繰り返すようになります。実際に、馬の卵巣機能がもっとも活発になるのは、夏至を中心とする5~7月ごろといわれますが、現在はこの方法を用いることで、早くから繁殖シーズンを迎え、効率的な繁殖雌馬の管理をすることが可能となっています。


育成馬へのライトコントロール、その効果は?
 さて、育成馬ではどのような効果があるのでしょうか?馬が発情するとき、体の中では色々なホルモン変化が起きています。雄であれば男性ホルモン(テストステロン)、雌であれば女性ホルモン(エストラジオール)濃度が上昇し、雄は雄らしく、雌は雌らしくなります(どちらのホルモンも成長を促す効果があります)。また、成長ホルモン様の作用を有するプロラクチンの濃度も上昇します。そこで我々は育成馬にライトコントロール法を行うことで、これらのホルモン濃度を早期に上昇させ、体の成熟を促すことができるのではないかと考え、JRA育成馬を用いて冬から春(12月20日:冬至~4月中旬)にかけて実験を致しました。
 実験の結果、ライトコントロールを行った馬は・・・
① 安全性:疾病や異常な行動は認められず、本法の安全性は問題ありませんでした。
② 雄群のホルモン濃度:テストステロン濃度は対照群に比べて早期に上昇しました。
③ 雌群のホルモン濃度:エストラジオール濃度が高く、初回排卵時期も対照群に比べて早期でした。
④ プロラクチン濃度:雄雌とも対照群と比較して高いホルモン濃度を示しました。
⑤ 毛艶:4 月時点で対照群の馬より明らかに毛艶が良化しました(図2)。
 このように、雌雄とも、早期に性ホルモン濃度が上昇するとともに、毛艶については明瞭な良化作用が認められました。

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図2:ライトコントロール(LC)群と対照群の毛艶の違い(4月時点)

育成馬へのライトコンロールのメリットは?
 近年、競走馬の流通形態において、騎乗供覧を行うトレーニングセールの需要が高まっています。そのような状況の中、ライトコントロール法を実施することで、発育が遅れている馬にも早期から十分な調教を実施できる可能性が有ります。また、セリにおいては馬の印象が良いことで購買意欲を高められることから、毛艶を良化させるライトコントロール法を実施することで、印象も大幅に変わり良好な売却結果につながるかもしれません。このようにライトコントロール法は馬房の天井にタイマー式の電球をセットするという簡単な方法ですが、そのメリットは大きいと思われます。皆さんも一度試してみてはいかがでしょうか?

【参考:ライトコントロールの実施方法】
 繁殖牝馬に実施するライトコントロール法と同じく12月20日(冬至付近)から3月初旬まで、昼14.5時間、夜9.5時間の環境を作成します。一般的な飼養環境においては、たとえば朝5時半から7時30分頃まで馬房内で点灯し、昼間は適当な明るさが確保できるよう、扉を開けるなどして管理し、続いて夕方の収牧後夜20時まで点灯します。照明は60~100ワットの白色電球(図3)を馬房の中央天井付近、または高さ2.5-3.0m付近に設置(蛍光灯でもOKです)。点灯・消灯はタイマー(図4:接続については電化製品店と要相談)で作動させ開始終了時間を設定すると非常に管理が楽になります。実施に当たって、2点注意事項があります。①効果を得るには暗い時間帯も必要です。ライトがついていない時間はできるだけ真っ暗にするのが理想的です。②また、厳冬期に冬毛が抜けますので、馬服を着せるなどのケアが必要になります。

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図3:白色電球100W          

4_2 図4:タイマー(自動でON・OFFされます)


(日高育成牧場 業務課 土屋 武)

2018年12月27日 (木)

育成後期における蹄管理

No.22 (2010年12月1日号)

始めに
 蹄壁が薄い若馬の蹄は、体型、肢勢、歩様、運動、地質、日常の蹄管理など様々な要因により、蹄質は硬化あるいは軟化し、場合によっては蹄が脆弱化するなど、成馬の蹄に比べ環境による影響が反映されやすいとされています。一方、このことは、この時期の変形蹄であれば的確な矯正を行うことにより、良好な蹄形に改善できる可能性が高いとも考えられます。当歳時ほどではないものの、育成期にある若馬も細かに蹄質が変化するため、その変化に対応した削蹄修正を迅速に行い、馬体に伴った蹄の健全な成長を図り、安定した肢勢を維持することで蹄の異常な変形は予防され、結果的にその馬の価値あるいは能力は一段と向上すると言えるのではないでしょうか。

蹄管理の重要性
 1歳馬の蹄成長量は、月平均12mmで、成馬の9mmと比べても成長速度が速いことが分かっています。また、この期間は馬体の成長や調教に伴って、蹄角度はやや減少するものの、蹄下面の面積や蹄壁の長さは増加していきます(図1)。蹄成長の盛んなこの時期に、蹄への負荷が増加する調教が行われるため、定期的な蹄の検査や細かな蹄管理を怠ると、蹄壁の過剰摩滅や蹄が内向する仮性内向蹄、あるいは様々な疾病と深い関わりが示唆される変形蹄「ロングトゥアンダーランヒール」になるリスクが高くなると考えられます。

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図1 育成期における蹄鞘の変化と体重の推移

ロングトゥアンダーランヒール(以下LU)
 LUとは、外見上蹄尖壁は前方に伸びすぎ、蹄踵壁が潰れた蹄の状態(図2)の名称です。競走馬でも一般的に見られる変形蹄のひとつで、その発生原因は肢勢の欠陥、調教・競走時の蹄踵への過剰負荷、遺伝的な欠陥、蹄の過剰な水分含有など様々な要因が考えられています。そしてLUがファクターの1つとなる疾患には、挫踵(蹄踵壁と蹄支の間あたりに発生する挫跖の一種)、蹄血斑、白線裂、蹄側・蹄踵部裂蹄、ナビキュラー病(蹄内部の緩衝作用を持った軟部組織の病気)などの蹄疾患、あるいは反回ストレスの増加や球節の過剰沈下に伴う腱・靭帯組織の損傷などが挙げられます。LU蹄を良好なバランスに戻すためには、まず凹湾している蹄尖壁を十分に鑢削し、次に潰れてしまった蹄踵部を削切して、蹄踵部に健全で真直ぐな角細管(蹄壁の強靭性を保つ角質組織)の成長を促すことが重要となります。この削蹄により、蹄の負重中心軸は後方へと移動するため、負重バランスの適正化が図れます。ただし注意することとして、思い切った蹄尖壁の鑢削を行った際は、蹄角質硬化剤などを塗布して蹄の堅牢性を保つように心掛けます。

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図2 ロングトゥーアンダーランヒール(LU)


 また他の削蹄手法として、ケンタッキー州のリック・レドン獣医学博士によって普及された4ポイント・トリムも、LUに適した削蹄手法の一つです。この手法は、蹄負面の内・外側と蹄尖部分を多めに削り、削り残った内・外蹄尖部と内・外蹄踵部の4点が接地するように配慮する削蹄で、蹄反回時の支点を後方へ移行するとともに、蹄角度と繋角度を揃えることを目的とします。結果、力学的に効率の良い蹄反回が可能となり、反回時に蹄骨にかかる力学的ストレスが緩和されるとともに、蹄負面が減少した分を蹄底・蹄叉にて負重することで、蹄壁の成長を妨げる障害を取り除くことができると考えられています。

育成期における装蹄
 近年、蹄鉄を初装着するタイミングは、世界的に見ると遅くなる傾向にあり、トレーニングセールの数週間前に初めて装蹄を行うパターンが最も多いとされています。少し極端な例を挙げると、競走馬になっても蹄の状態が良ければ、前肢は跣蹄で管理する厩舎が豪州、米国、英国などで増加しているそうです。一方、日本では、ほぼ全ての競走馬が調教、レースともに蹄鉄を装着して行われています。JRA日高育成牧場の育成馬においては、平均気温の低下により蹄の成長量が減少するものの、トレーニングセールに向けた調教が強まる明け2歳時ぐらいから、過剰な蹄の摩滅予防と肢蹄の保護を目的とし、四肢に蹄鉄を装着します。しかし、例外もあります。例えば、削蹄のみではLUの矯正が期待できない場合などに、蹄鉄の装着を検討します。現在市販されている蹄鉄には、反回ポイントの後方移動を目的とした様々なアルミ製蹄鉄(図3)があるため、蹄負面の成長が悪く十分な削蹄ができない場合などは、そのような蹄鉄を装着します。また、正常な蹄であっても蹄の成長量と調教による蹄の摩滅量が吊りあわない場合や異常歩様による偏った摩滅を防止する場合(図4)、また裂蹄・蹄壁欠損などの蹄疾患を発症した蹄などにも、早期に蹄鉄を装着します。

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図3 ワールドレーシングプレート(サラブレッド社製)

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図4 蹄尖壁の過剰摩滅蹄

終わりに
 変化に富む育成期の蹄を的確に管理することは、後の蹄形成に対して非常に重要であり、その馬の生涯のキャリアを高めることに繋がると考えられます。常日頃から蹄を観察する中で、違和感や不均衡が生じた際には速やかに装蹄師に依頼し、修正あるいは補強などにより蹄が本来持つバランスを取り戻すことが、護蹄管理、肢蹄保護の観点から大切なのではないでしょうか。

(日高育成牧場 専門役 粠田洋平、業務課 大塚尚人)

2018年12月18日 (火)

1歳馬の騎乗馴致 -その②-

No.19 (2010年10月15日号)

 前回に引き続き、1歳馬の騎乗馴致についての続編を紹介します。

基本装具

 騎乗馴致においては、まず、ブレーキングビット(写真1)とよばれるハミとキャブソン(写真2)を装着します。ブレーキングビットは、初めてハミを装着する馬が、口の中の正しい位置(舌の上)で受けることを覚えやすいよう、ハミの中央部にキーがついています。また、ハミは、まっすぐ走ることを教えるため枝のついたものを使用します。キャブソンは鼻革部分にリングがついており、最初はここからランジングレーン(調馬索)をとることで、馬の敏感な口を傷つけずに、ラウンドペン(丸馬場)で周回することを教えます。

1写真1 ブレーキングビット       

2 写真2 ブレーキングビットとキャブソン

馴致の流れ

1)1本レーンでのランジング(調馬索)

 最初はラウンドペンで馬を左手前で2-3周引き馬を行い、環境に慣らすとともに壁に沿って運動することを教えます。多くの馬は左手前が得意であり、右手前は苦手です。このため最初は得意な左手前を中心に実施します。時間をかけて苦手な右手前の運動時間を徐々に増加することにより、両手前をスムーズに実施できるようにします。

 ランジングは、壁に沿って運動させることが重要です。「人から離れて前に進め」という人のプレッシャー、「これ以上は外にいけない」という壁のプレッシャーのバランスにより、馬は自然に壁に沿って運動します。この最初のステップでは音声コマンドによって、「常歩」、「速歩」、「停止」を両方の手前でできるよう、馬とのコミュニケーションの確立を行います。馬に停止を要求する場合、必ず壁沿いの蹄跡で馬が動かないよう音声コマンドで停止させた後、人が馬に優しい声をかけてあげながら近づき、初めてプレッシャーを解除します。そのようにすることで、馬が人の合図を待たずに内に入って自ら運動を中断することを防止します。

2)ローラー装着

 馬がラウンドペン内で落ち着いてランジングができるようになったら、ローラー(腹帯:写真3)を装着します。まず、馬を左手前蹄跡上に駐立させた後、胸ガイを先に装着しローラーのベルトを締めます。このとき、馬を保持する者、追いムチで推進する者の役割分担を二人で行うことが重要です。馬がローラーの圧迫を嫌って、背を丸めてかぶったり、立ち上がろうとしたりする場合、瞬時に追いムチや声を用いて馬を推進し前に出します。馬は前方に動くことにより、やがてローラーの圧迫に慣れ、落ち着いたランジングが可能になります。装着したローラーは、すぐにはずさず、慣らすため30分~1時間程度装着を継続します。なお、ローラー装着に対する拒否反応が強い馬は半日~1日程度装着を継続することもあります。

 馬がローラーを受け入れ、1本の調馬索で落ち着いてランジングができるようになったら、サイドレーン(写真4)を装着します。最初はキャブソンからサイドレーンをとり、馬が慣れたらハミからとります。また、サイドレーンはき甲部でクロスして使用します。この方法は、ドライビング時に頭を下げて草を食べるなどいたずらを防止するとともに、必要以上に頭を下垂させず、騎乗時の安定した頭頚を教える上で極めて有用です。
   

3 写真3 ローラーを装着してのランジング                 

4 写真4 サイドレーンの装着方法(キャブソン)

3)ドライビング

 ダブルレーンによるランジング(写真5)は、1本目の調馬索をハミの内側からとり内方の手(左手前では左手)で保持し、2本目の調馬索はハミの外側からとり馬の外側を回して飛節の上部に位置し外側の手(左手前では右手)で保持します。馬がレーンによって飛節に触れられることに慣れ、ランジングがスムーズにできるようになったら、御者が徐々に馬の後方に回り込んでドライビング(写真6)の体制を教えます。最初は、ラウンドペンの中で2本の調馬索を保持し、馬の後方から前進気勢を与えることに慣らすとともに、ドライビングによる方向転換を教えます。ドライビングは騎乗する前に基本的なハミ受けを教えることといえ、バイクに例えるならば、ハンドル、ブレーキおよびアクセルなどの制動装置をセットするようなものです。
  

5 写真5 装鞍してのダブルレーンによるランジング      

6 写真6 走路でのドライビング

4)騎乗

 御者の指示によって、自由自在にドライビングが行えるようになれば、騎乗のステージへと進みます。ここでは、馬に人の体重負荷を慣らすとともに、馬にとって死角に当たる真後ろの位置で人が動くことに慣らします。最初の騎乗は馬房の中で実施します。これは、広さの限られた狭い馬房の中であれば、馬が驚いて暴れても、助手が確実に馬の動きを制御することができるからです。最初は横乗り(写真7)の状態で助手が馬を保持して馬房の中を大きく回転します。次に実際にまたがって助手が保持した状態で馬房の中で動かします。馬が落ち着いていればアブミをはいて脚による前進扶助を徐々に教えます。次に、ラウンドペンの中で騎乗することができれば(写真8)、やがて馬場で騎乗することができます。ここまで概ね約3週間をかけて実施します。

7 写真7 馬房内での横乗り

8 写真8 ラウンドペンでの騎乗

最後に

 実際の騎乗馴致では、怖がりで逃避反応が速かったり、我が強くなかなか要求したとおりに行動してくれなかったりと、馬によっては非常に難しいこともあります。しかし、どのような馬に対しても人が気長に構え、馬の行動をよく観察することによって難しくしている原因を見出し、求めたい方向へと導いてあげなければなりません。すなわち、私たちは、①馬に対してその将来を期待すること、②馬に求める目標を明瞭かつ具体的にイメージすること、③その時々の馬の状態・能力を確実に把握・理解すること、および④段階を踏みながら安全かつ無事に目標に導くこと、という4つのビジョンをもって馬の馴致を行うことが大切であると考えています。

 今回記載した騎乗馴致については、2009年12月に発刊した「JRA育成牧場管理指針」-日常管理と馴致(第3版)-に記載されています。この冊子の必要な方はJRA馬事部生産育成対策室までお問い合わせください(JRAホームページの「JRA育成馬サイト」(http://homepage.jra.go.jp/training/index.html)でもご覧になれます。
  

(日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

2018年12月17日 (月)

1歳馬の騎乗馴致 -その①-

No.18 (2010年10月1日号)

 一般に、サラブレッドは1歳秋(9~11月)になると、人に乗られることに馴らすための「ブレーキング」とよばれる騎乗馴致を開始します。今回はJRA日高育成牧場で実施している騎乗馴致に対する考え方について述べます。

馴致に対する考え方
 競走馬の世界で一般的に用いられている馴致という言葉は、「乗り慣らし」の意味で多く使われています。しかし、広義では、「競走馬としてデビューするために、必要となる数多くの物事に対する教育」ととらえることができます。例えば、人を乗せて走ることは、競走馬として必須ですが、それのみでは十分とは言えません。手入れ、トレーニング、輸送、装蹄、ゲートなどの数多くの物事を、人とともに落ち着いて実施できるようになって、初めて競走馬としてのデビューが可能になります。また、馬がもつ能力を競馬で100%発揮するためには、人の指示に従うことが必要不可欠です。このように捉えた場合、競走馬の馴致は生まれ落ちたときから、出走という目標に向けて始まっているといえます。つまり、日々の馬への接し方が馴致であるともいえます。このため、馬を取り扱う者は、馬に求める目標を明確に見据え、それぞれの時期に済ましていなければならない躾(しつけ)や作法を、確実に積み重ねていくことが重要です。

Driving
ドライビング:騎乗を教える前に、後方から2本のレーン(調馬索)を用いて馬に前進気勢を与え、左右への回転や停止・発進などが自由自在にできるようにします。

ブレーキング
 騎乗馴致のことをブレーキング(breaking)とよびますが、これは騎乗時に手綱を引いて馬が止まるブレーキ(brake)を馬に装着するのではなく、馬同士の約束事を壊し(break)し、新たに人と馬との約束を構築することを意味します。このbreakは、「殻を破る」と表現することもありますが、決して人の力任せに馬を屈服させることではありません。馴致とは「馴らして目標とする状態に至らしめること」で、その際、馬にそうさせるのではなく、馬がそうするように仕向ける姿勢が重要です。その原理は、人が馬に対して何かを要求する指示(プレッシャー)を与え、そのプレッシャーから馬が逃げる方向が、人が要求するものと一致するよう馬を導きます。達成したとき、持続して与えていたプレッシャーをオフにしてあげることで、馬は楽になれることを理解します。言いかえると、「プレッシャーオフ」とは馬が要求に答えた際、即座に、声をかけたり愛撫をしたりして褒めることともいえます。馬は草食動物であるので、危険なもの(プレッシャー)からは回避すると同時に、同じ場所にとどまって草を食べる安住の場所(プレッシャーオフ)を求めています。馴致では、その馬の習性を上手に利用することが重要です。したがって、馬が疲労困憊するまで反復練習をするよりも、人の要求を理解したときに即座にプレッシャーを解除してあげることのほうが効果的に馬を教育することができます。以下にJRA日高育成牧場で取組んでいる馴致をすすめる際の留意点を述べます。


①人馬の信頼関係を築くこと
 信頼関係の第一歩は、人と一緒にいることで安心できる関係、雰囲気作りであり、この取り組みは生れて間もない時期から開始します。


②人が馬のリーダーになること
 馬取扱者や騎乗者は、馬に接する際、常にリーダーであるように心がけなければなりません。これは馬に恐れられる存在になることではなく、何かが起こった際に、人の指示が尊重されることを意味します。特に、牡馬は自分がボスと勘違いする傾向を持っていることから、そのような場合、馬に対して毅然とした態度で接し、人への尊敬を教えることが重要となります。一方、牝馬の場合、馬が怖がっているのか、反抗しているのかの判断が大切であり、基本的には優しく接します。


③馬に経験を積ませること
 馬は新しい物事に対して臆病であり、驚きやすい動物です。反面、自分に危害が及ばないことを理解すればかなりの物事に慣れる習性をもちます。したがって、競走馬になるために必要なことは、怖がるから避けて通るのではなく、積極的に馬に体験させて慣れさせることが重要です。


④段階的に進めること
 人の都合で馬が理解していないのに馴致におけるステップのいくつかを省略した場合、トラブルがおこり、馴致の失敗として馬の心に大きな傷が残ります。この失敗は、人間不信や落ち着きの欠如などとして後々まで悪影響を及ぼしますので、先々を見据え段階的に馴致を進めることが重要です。


⑤明確な指示を発すること
馬に対する指示は、態度や言葉を正しく理解してもらわなければ意味がありません。馬は、常にリーダーである人の感情を気にしています。したがって、明快に人の指示を馬に与え、それに対して馬が正しく反応したのかしなかったのか示してあげる必要があります。例えば、馬が正しく指示に従った場合には、「~をやりなさい」というプレッシャーを即座に解除し、優しく声をかけてあげます。一方、正しく反応しない場合には、指示を継続するとともに「アッ!アッ!」というような注意を喚起する声を発し、正しくない行動を取ったことを馬に理解させます。馬は「懲戒」よりも「プレッシャーオフ」に対してモチベーションをもつ動物であることを理解する必要があります。

 次回は馴致の実際について記載したいと思います。


(文責:日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

2018年12月12日 (水)

育成馬の運動器疾患について

No.16 (2010年9月1日号)

 来年の競馬デビューに向けて1歳馬の騎乗馴致がそろそろ始まる時期となりました。これから、調教が進むにつれ、様々な問題が出てくる時期だと思います。今号では、育成に携わる方々が様々な場面で悩まされる「育成期の運動器疾患」のうち、ここでは「屈腱炎」やレポジトリーに関係する「種子骨炎」「OCD」を中心に紹介します。

① 屈腱炎:近年の育成段階における調教強度増加によって、症例数も徐々に増えている傾向にあるようです。腱炎といっても様々な症例がありますが、その中でも球節掌側(裏側)の浅屈腱炎が増加しているようです。原因は過度な運動による浅屈腱の過剰緊張や腱線維の高温化などがあり、症状は同部の帯熱・腫脹および触診痛を認めます。診断は主にエコー検査によって行われますが、競走馬総合研究所常磐支所などで実施した調査によると最大損傷部位が20%を超えるレベルでは、競走復帰率が大幅に低下するとされています。最近の治療法では、幹細胞移植(カネヒキリが有名ですね)が良好な結果を挙げ始めていますが、そのような治療を行ったとしても長期間の休養が必要になることは変わりません。


② 種子骨炎:球節の過伸展や捻転が原因とされています。症状としては近位種子骨および繋靭帯(けいじんたい)付着部の熱感および触診痛、また軽~中程度の跛行を示します。診断は臨床症状の他に、主にレントゲン検査によって種子骨辺縁の粗造や線上陰影(図1:いわゆる“ス”が入る、という像)を確認することで判断されます。レポジトリーにおいても、本所見を気にされる購買者の方は多いのではないでしょうか?本会の実施した調査では前肢種子骨所見のグレードの高い馬(グレード0~3で評価されるうちの、グレード2以上)では、競走能力には影響を与えないものの、調教開始後に繋靭帯炎を発症するリスクが高まるとの結果が得られています。しかし、後肢についてはグレードが高くても調教やその後の競走能力に差はありませんでした。治療については、急性期は冷却および運動制限が有効です。また、最近ではショックウェーブ療法も実施され、良好な成績を上げているとの報告もあります。


③ OCD:セリに上場する際はもちろん、その後も非常に悩まされる症例です。OCDは様々な部位に発症しますが、その多くは無症状であることが多いようです。しかし、その保有部位の関節液が増え、腫脹を認めたり、熱感を帯びてくるようであれば、跛行の原因となることもあります(図2)。その場合、ヒアルロン酸やグリコサミノグリカンなどの定期的な投薬という保存的療法もあるのですが、手術が第一の選択肢となります。また、OCDとは区別されますが、DOD(発育期整形外科疾患)の一種として大腿骨の骨嚢胞(図3)があります。育成期に入って後肢の跛行を認め、ある程度休養すると改善するが、調教を再開すると再度跛行するというような馬の中にはこの所見を保有している馬がいるようです。治療としては、外科手術による掻把術が過去には行われてきましたが、最近では嚢胞部へのステロイド注入およびショックウェーブ療法が有効という成績が出てきているようです。一方、保存的療法はあまり有効ではないとされています。
 OCDについては、JRA育成馬購買の際に確認していますが、OCDがあるからといって購買をやめるということはありません。昨年購買した80頭の中の約15%程度である14頭の育成馬が保有しており、ほぼ全馬で育成期間中に症状を認めることはありませんでした。JRAでは今後このような馬について、競走期も含めた継続調査をすることで、購買者の皆様にレポジトリーへの理解が深まるよう努力していきたいと考えています。

最後に
 ここまで、3つの運動器疾患について記載してきましたが、いずれにしても重要なのは“早期発見・早期治療”です。そのためには、普段からのケアおよびチェックをしていくことが重要です。多くの運動器疾患では“歩様が硬くなる”“いつもと騎乗した感じが違う”などの前兆を認めることが多いようです。それらを未然に防ぎ、よりよい育成調教を進められるよう、普段から愛馬をよく触り、よく観察しましょう。


(日高育成牧場 業務課 土屋 武)

Fig1 図1:種子骨グレード2のX線画像
(いわゆる“ス”が入るという所見)

Fig2 図2:飛節OCD所見
(下記に示した馬は育成期間中を通して症状を示さず、
2歳7月に出走致しました)

Fig3 図3:大腿骨骨嚢胞のX線画像

2018年11月20日 (火)

セリ馴致と上場馬の魅せ方

No.11 (2010年6月15日号)

 7月にはいると、八戸市場(7/6)、セレクトセール(7/12・13)、セレクションセール(7/20・21)などの1歳および当歳市場が始まります。すでに上場馬も決定し、生産牧場やコンサイナーにとってセリ上場に向けての準備が忙しい季節がやってきました。今回は、「JRA育成牧場管理指針」の中から、バイヤーの目を引きつける馬のセリ展示方法について紹介いたします。

セリ展示方法

 まず、JRA購買関係者が、セリに上場された馬に対する上場者の飼養管理や手入れについて注目している点を述べます。

 一般に、セリにおいて高額で売却される馬は、血統、肢勢や馬格などの先天的要素に加え、適切な運動や飼料給与による飼養管理によって見栄えのいい馬体につくられています。その中でも、よく躾ができており、人の指示に対して従順に駐立や常歩などを実施することができる馬は、その後の調教がスムーズに移行できることから、安心して購買することができます。上場馬のプレゼンテーションとして、きれいに手入れされた展示用の頭絡を装着し、ブラッシングによって被毛がピカピカに磨かれている馬には思わず目がとまります。また、長さを揃えられたてがみをブラシできれいに右に寝かせ、顔のひげ、耳毛や球節部の距毛までもカットされる等の細やかな手入れが行われている馬は、よく手がかけられている印象を購買者に与えます。このように手入れやトリミングによって馬の身だしなみを整えることは、購買者にサラブレッドとしての気品溢れる美しさや肢先の軽い印象を与える効果があります。

 一方、見かけの良さに加えて、常歩において快活で力強い動作を自然にみせる馬には、競走馬としての将来的素質を感じることができます。セリ会場において、購買者から注目される馬は、何回も馬房から引き出され検査を求められます。しかし、馬はどんなに疲れていても元気よく歩かなくてはならず、また、歩くときはいつでも、人の指示に従っていなくてはなりません。このときの常歩の印象が購買者に与える影響は大きいものです。したがって、いつでも力強い大きな常歩ができるよう、引き馬によって馬を躾ける準備期間が必要です。こうした準備には、およそ2-3ヶ月を要するものと考えられます。

チフニービットと引き馬

 JRAが購買後の1歳馬に引き馬を教える際、馬が暴れたときに制御することができるチフニービット(ハートはみ:写真1)を装着して実施します。このハミはハートの形をした金属でできており、上の部分を口の中にいれ、ハートの下部は下あごの周囲に位置し、この下あごの真下の金属部分に1本の引き手が連結しています。馬が暴れた際に、地上にいる御者からハミに強く作用することができることから、引き馬での制御に効果的です。このハミは欧州で使用されることが多いのですが、近年、わが国の競馬場のパドックでも競走用ハミ頭絡の上から装着しているのをよく見かけます。しかし、残念ながらハミの特性が理解されていないのか、下あご部分に引き手を装着せず、頬革に連結するハミの横部分に2本の引き手を装着する馬が多いようです(写真2)。チフニービットを使用してパドックで馬を引く際には、1本の引き手を使用した方が、2本の引き手よりも効果的に馬を制御できるものと考えられます。

 セリ馴致で引き馬を実施する際には、人のポジションが重要になります(写真3)。つまり、牛のように馬を『引っ張るのではなく』、馬の肩の横に位置して『馬と一緒に歩く』ことが重要です。横から見て馬の頭よりも後方に人が位置し、そこから馬に対して『前に歩く指示』を出すことで、馬自らが前に向かって『意欲的に歩く』ことを覚えさせます。また、人が馬の頭の位置よりも前や横にいると、引き手を噛んだり人の腕を噛んだりして遊ぶことを覚えることもあるので注意が必要です。この人馬の位置関係は、騎乗馴致を行う際のダブルレーンを用いたドライビング(写真4)とも似ています。ドライビングでは、馬の後方にいる御者が馬に対して前に出る指示を出し、その前進気勢をハミで受けて制御します。つまり、これは人が馬に騎乗した際の位置関係と同様であり、引き馬で正しく歩かせることができることは、今後、騎乗する際に従順な馬を躾けることにもつながってくるのです。

 なお、馬に体力をつけ速く歩くことを教える上で、引き馬と併用してウォーキングマシンの使用は有効です。ウォーキングマシンの活用によって馬自らが物理的に速く歩くことを覚えさせることができます。JRA育成馬におけるウォーキングマシンのスピードは、最初は5~5.5km/hとし、徐々に6.5km/hくらいまで上げて実施しています。しかし、ウォーキングマシンのみでは人馬の約束事を構築することができませんので、セリ馴致に引き馬は欠かすことができないことを忘れてはなりません。

 今回記載したセリの準備のために必要なトリミング、引き馬および展示方法については、2009年12月に発刊した「JRA育成牧場管理指針」-日常管理と馴致(第3版)-に記載されています。この冊子を必要とされる方はJRA馬事部生産育成対策室までお問い合わせください。

(日高育成牧場 業務課 遠藤 祥郎)

Fig1 写真1) チフニービット(ストレートバー)
引き手は下部のリングに1本装着して使用します。横のリングに引き手をそれぞれ2本装着すると効果は半減します

Fig2_3写真2) 競馬場で2本の引き手をチフニービットの両横から装着し張り馬にしている誤った使用方法

Fig3写真3) 馬の肩の位置に人がポジションした引き馬 

Fig4 写真4) ドライビングはこのように2本のダブルレーンを用いて馬の後方から操作します

2018年11月17日 (土)

JRAブリーズアップセールの取組み

No.7 (2010年4月15日号)

 来たる4月26日(月)、中山競馬場で2010 JRAブリーズアップセールを開催いたします。本年も多くの皆さまのご来場をお待ち申し上げております。今回は、JRAが実施する育成業務の役割とJRAブリーズアップセールの取組みについて紹介したいと思います。

JRA育成業務の役割
 JRAでは、各地で開催されるサラブレッド市場で購買した1歳馬を、日高・宮崎の両育成牧場で育成・調教したのち、2歳の春に売却しています。その目的は、「強い馬づくり」に資するため、これらのJRA育成馬を用い、1歳夏から2歳春の後期育成期の調査研究や技術開発を実施し、競走裡で検証して成果を普及することです。これまでの成果として、“昼夜放牧の普及”、“海外からの人馬に安全なブレーキング(騎乗馴致)技術の導入”および“若馬に対する早期からのトレーニング方法”などがあげられます。
 

 また、生産育成研究室では平成10年秋から生産に関する研究を実施していますが、生産から中期育成期には“早期胚死滅”や“DOD(発育期整形外科疾患)”など、多くの課題が残されていることから、昨年誕生した産駒からはJRA育成馬として、 “胎子期~1歳夏までの期間の適切な飼養管理”に関する研究を進めているところです。彼らは、離乳後は厳寒期を通して昼夜放牧で管理されており、今後、秋には騎乗馴致を行い、来年のブリーズアップセール上場を目指しています。

 さらに、BTC(軽種馬育成調教センター)生徒やJRA競馬学校騎手課程生徒に対する人材養成にもJRA育成馬を活用しています。この実践研修の一環として、騎手課程生徒は、多くの馬主や調教師の見守る中、JRAブリーズアップセールの調教供覧で騎乗することになっています。

JRAブリーズアップセールの取組み
 JRAでは、ブリーズアップセールを育成研究に用いたJRA育成馬の売却の場としてだけでなく、新規に免許を取得された馬主を始めとして、セリでの購買に慣れていない馬主の方が、本セールをきっかけに、他の多くの市場へ興味を拡げていただけるような“入門編のセール”と位置づけて、以下のような取り組みを実施しています。

① セリ情報の早期発信
 最近はどの市場でも普通に行われるようになりましたが、“インターネット上での馬体写真カタログ”、“調教VTR”や“個体情報”などのセリ情報をいち早く発信しています。また、ブリーズアップセールや他の市場で馬を購買した方が、預託調教師を選択する際の参考として役立つよう、「調教師プロフィール」を改定し、中央競馬全馬主の皆さまに送付いたしました。

② 徹底した情報開示
 近年、海外のみならず国内の一部市場においてもレポジトリールーム(医療情報開示室)で、四肢のX線写真や上気道(ノド)の内視鏡動画といった医療情報を見ることができるようになりました。JRAブリーズアップセールでは、わが国で最初に医療情報を開示するとともに、これまで10年以上にわたって、JRA育成馬における4肢X線写真や内視鏡所見と競走成績との関連について積み重ねてきた研究をもとに、JRAの考えるレポジトリーの見方についてまとめました。今後はせり主催者、販売者および購買者がレポジトリーの共通認識を持てるように、育成馬展示会やブリーズアップセール等を通じて、普及活動を実施していきたいと考えています。

 JRAブリーズアップセールでは、レポジトリー情報に加えて、個体別の調教履歴、馬体重の推移、疾病歴等の情報も公表しています。これは、馬主の皆さまが、公表事項を納得、安心して購買いただくとともに、預託を受けた調教師がトレセン入厩後に調教や管理の引継ぎをスムーズに行えることを目的としています。

 今後、OCD(離断性骨軟骨症)の発症や治療歴および育成期の屈腱の形状と競走成績の関連等の課題についても、JRA育成馬を用いて引き続き調査研究を行っていく予定です。

③ リーズナブルな価格設定と台付けの事前公表
 最終的な落札価格は、馬の資質と市場の雰囲気によって決定されるものですが、多くの皆さまにセリに参加していただき、気に入った馬に一声でも声をおかけいただきたいと願っています。JRAブリーズアップセールではそのような観点から、来場された購買者の皆さまが一声をかけやすいようリーズナブルな台付け価格を設定しています。また、ご予算に応じた購買馬の選定が容易となるように、事前(当日朝)に台付け価格を公表しています。


 このようにブリーズアップセールは、来場された皆さまがセリを楽しんでいただけるよう、皆さまの信頼を失わないようセリ運営に取組んでおります。また、5月から行われる民間の2歳トレーニングセールや夏の1歳市場の主催者ブースを設ける予定です。JRAはブリーズアップセールの来場をきっかけとして、一人でも多くのお客さまが“セリで馬を買おう”という雰囲気になっていただけることを願っています。

(日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

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2018年11月16日 (金)

育成後期トレーニングの原則

No.6 (2010年4月1日号)

 今回は馬の本性から考えられる育成後期のトレーニングの原則について紹介いたします。人間のアスリートがより高いトレーニング効果を得るための運動生理学上の理論として、以下の4つの原則があります。

1. 「過負荷」:日常の水準以上の負荷をかける
2. 「漸進性」:負荷は徐々に強めていく
3. 「反復性」:負荷はくり返し行う
4. 「個別性」:個々の体力、技術、性格に合わせて負荷をかける

 この4つの原則はサラブレッドの調教にもそのまま当てはまります。例えばオリンピック選手などは「栄誉(金メダル)」「社会的地位(引退後の身分保障)」「金銭(スポンサー収入)」などを得るため、人一倍のハングリー精神を発揮し自己のモチベーションを高め厳しいトレーニングに励みます。

 しかし、馬に金メダル獲得への動機付けを与えることは不可能です。皆さんは、そもそもサラブレッドは速く走ることを好む動物であると考えていませんか。競馬場では気持ちよさそうに疾走していますから・・・。ところが、馬とは「(生命維持のため)安心で快適な場所を求め、人間等からの指示や刺激がなければ元来無駄な動きをしたがらない」という本性を持っています。この本性は人類を含めすべての動物に共通するのかもしれません。しかし人類は自らの脳を使って思考する点が他の動物と大きく異なります。こうした馬の生物的な本質を理解したうえで、日々のトレーニングで負荷を高めていく必要がありますが、その最大のポイントは、「馬の精神面の管理(メンタルマネージメント)」です。ホースマンの金言に「馬をハッピーでフレッシュに保て!」というものがあります。筆者は初めてこの言葉にふれた時、非常に耳あたりが良いので当たり前のように受け流してしまいました。しかし、実際に馬の育成調教の現場に携わると、このハッピーでフレッシュという言葉の意味がずしりと重く肩にのしかかってくるのです。晴れて競走馬としてデビューすべく、日々のトレーニングで肉体的に鍛えられる馬達を、このような「ハッピーでフレッシュ」な精神状態に保てなければ、トレーニングをなかなか継続することは難しくなってしまうのです。馬のなかには、食欲が落ちたり、イライラしたりで、体が細くなってしまう馬もでてきます。

 さて、JRA日高育成牧場では、1歳馬の騎乗馴致ステージを終え、トレーニングステージに移行する2歳の年明けから、馬が「走らされたのではなく走ってしまったと感じる」調教をスタッフ全員のキーフレーズ(モットー)にして調教を進めていきます。これは、極力ムチや騎乗者の無理な体重移動によって、強制的に馬を動かすのではなく、「群れたがる習性」や「先行馬に追従する」馬本来の特性を利用し、結果として十分な運動をしてしまったという状況を作り出すことが鍵といえます。「運動と休息」のメリハリをつけ、調教後には褒美としてエサを与えます。

 調教コースや調教内容に変化をもたせ、馬を飽きさせないことも大事です。こうした工夫によって、毎日の調教が馬にとって「強制的な不快な運動」ではなく、「前向きで楽しいエクササイズ」になってほしいといろいろ取り組んでいるのです。

 調教を行う前提として、馬の体内には走るためのエネルギーと気持ちが蓄積されていることも重要です。朝、馬房から放牧地に放された馬が、気持ちよさそうにしばし駆け回るあの時の歓びの気持ちや心理状況をイメージすると、ある意味では「調教をやり過ぎない」ことも重要な視点です。筆者も鮨は大好物ですが、いくら美味しい鮨でも腹がはち切れるほど食べると、毎日は食べたくなくなります。いわゆる「腹八分目」の大切さです。筆者は競馬用語の「追いきり」という言葉にはどうも抵抗があります。今から20年ほど前、とあるアイルランドのホースマンが、ムチをバチバチ使い力強く手綱をしごく日本流の「追いきり」を見て、「もうこの馬の次走の好走はないね・・」とつぶやいたのが強く印象に残っています。「腹八分目」がどこなのか、これを見定めるのは非常に困難です。これは調教前後の馬の状態をよく観察することで見極めるしかありません。一方、「心拍数」「乳酸」を測定するなど、科学の目の活用も大切です。

 トレーニングそのものに、「意義や必要性」を感じることのできない馬達に、毎日の調教で気持ちよく前向きに走らせるためには、何より「ハッピーでフレッシュ」な気持ちの維持が不可欠なのです。

(日高育成牧場 副場長 坂本 浩治)

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現在は、1000m屋内坂路で週2回乗り込んでいる