後期育成 Feed

2019年4月15日 (月)

運動器疾患に対する装削蹄方針について

No.66 (2012年11月1日号)

はじめに
 蹄は、肢勢や歩様などの異常を変形することで表す受動的な器官であると同時に、その形態の善し悪しが様々な運動器疾患を引き起こす一要因にもなる器官とされています。そこで今回は、競走馬に見られる運動器疾患の中でも、比較的蹄管理との関係が深いとされているいくつかの疾患について紹介したいと思います。

屈腱炎
 多くの名馬たちが引退へと追い込まれた運動器疾患「屈腱炎」は、蹄の形態と強い関連性があると考えられています。特に、異常蹄形である「ロングトゥ・アンダーランヒール(図1)」は、屈腱炎発症肢に多い蹄形との報告があるように 屈腱炎発症の一要因として考えられています。過剰に長い蹄尖壁(ロングトゥ)は、蹄の反回時に生じる屈腱への負荷を増大させます。また前方へ移動した蹄踵(アンダーランヒール)は、蹄尖を浮き上がらせるような力を増大させると考えられます。そこで、前方へ張り出した蹄尖壁を定期的に削り取ることで反回負荷の軽減を図ったり、前方へ伸び過ぎた蹄踵を除去したりします。それでも直しきれない場合は、蹄角度を起こす厚尾蹄鉄(先端から末端にかけて厚みが増す蹄鉄)や、蹄尖が浮き上がる力を抑制するエッグバー蹄鉄(末端部が繋がったタマゴ状の蹄鉄)を装着し、蹄角度の改善や力学的ストレスの緩和を図ります(図2)。ただし、どちらの蹄鉄も蹄踵部にかかる負荷が増大することにより蹄踵壁が潰れてしまうため、長期間の使用は極力避けた方が良いでしょう。

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図1 ロングトゥ・アンダーランヒール

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図2 厚尾状エッグバー蹄鉄

球節炎
 球節部に腫脹、帯熱、屈曲痛などが生じる球節炎と蹄の形態にも関連性があると考えられています。不同蹄(左右の蹄の大きさや角度が異なる蹄)に発症する各運動器疾患について調査したところ、蹄が大きい肢において球節炎が多く発症することが分かりました。蹄が大きいということは蹄の横幅(横径)が長いため、横幅が短い小さな蹄に比べて地面の凹凸をより多く拾うことになります(図3)。球関節はその構造上、可動範囲が前後2方向に限られているため、凹凸を踏んだ際に生じる蹄が傾くような横方向の動きは、球関節へのイレギュラーなストレスになるでしょう。そのことは、球節炎のみならず球節軟腫や繋靭帯の捻挫(過伸展)などを引き起こす要因になってしまうかもしれません。蹄側壁が凹湾し、横幅が長くなっているような蹄は、しっかりと鑢削して適度な横幅を維持しましょう。もし跣蹄において横幅が長い場合は、4ポイントトリム(内外側の蹄尖・蹄踵負面4点のみに負重を促す削蹄技法)を行うことにより横幅の短縮が図れます。

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図3 横幅が長いと凹凸を拾いやすい

内側管骨瘤
 第2中手骨と第3中手骨の間に異常な骨増生が起こる運動器疾患で、成長期にある競走馬や若馬に多く見られます。軽度なものであれば骨増生がある程度納まった時点で跛行は消失しますが、腕関節に近い部位にできる骨瘤は靭帯や腱を傷つける恐れもあります。発症の原因としては、骨格が不成熟な時期に行う強い調教、交突(蹄が対側の肢蹄に衝突すること)や硬い地表による衝撃、蹄の変形による内外バランスの欠如、極端な外向肢勢や広踏肢勢、またオフセットニー(図4)などの異常肢勢が挙げられます。装蹄視点からの対処法としては、蹄鉄と蹄の間に空隙を設けたりパッドを挿入したりすることで、衝撃の緩和を図るといった装蹄療法がありますが、蹄に直接伝わる衝撃は緩和出来ても、関節や骨に加わる負重は変化しませんので、ほとんど効果は期待できません。肢軸の状態を十分に考慮した上で、蹄内外バランスの調整を定期的に行うことのほうが大切と言えるでしょう。

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図4 オフセットニー

おわりに
 ここまで紹介した運動器疾患の発症すべてに共通する要因として「蹄の変形」が挙げられます。蹄の形態は、遺伝、肢勢、飼料、運動、敷料、年齢、気候など様々な影響により日々変化することから、日常の蹄管理を怠った状態で蹄のバランスを保つことは不可能と言えるでしょう。特に、骨や靭帯あるいは腱などが柔軟で、蹄角質の成長が活発な若馬は、わずかな期間で蹄が変形してしまいます。しかし、成馬に比べればバランスの矯正も比較的容易に行え、各部位の骨端板(骨細胞の増殖により骨が伸びる軟骨部)が閉じる前では、ある程度の肢勢矯正も期待できることから、蹄が変形しやすい異常肢勢にならないよう早い時期から対処し、将来的な運動器疾患の予防へと繋げていきましょう。

(日高育成牧場業務課 工藤有馬・大塚尚人)

2019年4月 3日 (水)

育成馬における飛節の検査所見と競走期パフォーマンス

No.61 (2012年8月15日号)

 馬の成長期には様々な問題が発生することがあります。その中でも運動器に発生するものをDOD(Developmental Orthopedic Disease:発育期整形外科的疾患)と呼ばれており、流通を妨げる可能性があるとともに、競走馬としての将来を懸念させる要因になっています。その中でも今回は飛節に発生するものについて紹介したいと思います。

飛節に発生する異常所見
 最も一般的に見られるのはOCDと呼ばれるもので、「離断性骨軟骨症」ともいいます。生産者の方なら獣医師などから聞いたことがあるかもしれません。骨の先端の近くには、成長板(骨端線)というところに沿って存在する軟骨の層があり、骨が成長する際には、その軟骨が骨に置き換わっていきます。これが正常に発達せず軟骨として骨の外に残ってしまう状態のことをOCDといいます。OCD以外にも様々な所見が見られ、いずれもセリ前のレポジトリー検査などで発見されることが多いようです。これらは生産者の方の頭を悩ませるひとつになっているばかりではなく、購買者にとっても競走馬としての将来をどう判断したらよいのか悩むところではないでしょうか。

発生部位
 飛節の異常所見はレントゲン検査によって見つけることができます。発生部位に関する報告(Kaneら.2003)によると、最も多くの発生が認められるのは脛骨中間稜のOCDで検査対象馬の4.4%に認め、距骨内側滑車のOCDが4.2%、距骨内側滑車遠位のOCDが1.7%、距骨外側滑車のOCDが1.4%、足根骨の虚脱が1.2%、脛骨内顆のOCDが0.5%と続きます(写真1,2)。

1_6 図1 飛節を構成する骨(骨標本の正面より)

2_7 図2 右脛骨中間稜のOCD

臨床症状
 レントゲンで飛節に異常所見を認めた馬によく認められる臨床症状は、飛節の腫脹(いわゆる飛節軟腫、写真3)で、腫脹の程度により歩様の違和が認められることがあります。発生部位によって違いはありますが、跛行を呈することはまれなようです。

3_5 図3 飛節軟腫の外貌

OCDが見つかったら?
 特に臨床症状がないなら、ほとんどの場合無処置でも問題ないと考えられています。飛節軟腫などの症状が現れた場合は関節鏡を用いた摘出手術を行う場合もありますし、内科療法で改善することもあります。Beardら.1994の報告では、摘出手術を行っても出走率には影響ないとされていますが、症状の程度や発見された時期、セリに出す馬か否かなどさまざまな要因があるため、どちらを選択するかは判断が難しいところかもしれません。

競走パフォーマンスとの関係
 飛節に異常所見を認めた馬(所見保有馬)の競走馬としての成績はどうなのかは気になるところです。Kaneら.2003の報告では、飛節に異常所見を認めた馬(所見保有馬)の出走率、入着率、獲得賞金は、異常所見がない馬と比べて差がなかったとされています。
 JRAでは、レポジトリーに関する知識を販売者・購買者・主催者の3者が共有し、市場における取引を活性化するために、ホームブレッドやJRA育成馬を活用して、これまで1歳馬の四肢X線所見、上気道内視鏡所見と競走パフォーマンスの関連を調査してきました。その一環として、飛節の所見保有馬についても調査を行っております。現在のところ5世代のデータを蓄積している段階で、412頭中、所見保有馬が36頭いました。36頭のうち、OCD摘出手術を受けていたものや、飛節軟腫の症状を示したものはいましたが、跛行を示したものはなく、調教に支障をきたすことはありませんでした。トレーニングセンター入厩後の追跡調査においても、問題になっている馬はいませんでした。5世代の内、4世代について、3歳5月までの獲得賞金を調査したところ、所見保有馬と所見を認めなかった馬とでは差は見られませんでした。
 この研究に関しては、まだ調査を継続しているところです。新しい知見が得られましたら、また皆さんにお知らせしたいと思います。

(日高育成牧場 業務課 中井健司)

2019年4月 1日 (月)

コンフォメーションとパフォーマンス

No.60 (2012年8月1日号)

 「コンフォメーション(conformation)」とは、馬の外貌から判別することができる骨格構造、身体パーツの長さ、大きさ、形状やバランスのことをいい、「相馬」とほぼ同義語といえます。コンフォメーションがよい、すなわち力学的に無駄がない骨格構造をしている馬は、理論上、速く走ることが可能です。コンフォメーションの良い馬は、人が騎乗した場合も無理な緊張がかからず、馬自身がバランスを保ちやすいことから、コンフォメーションが悪い馬よりも乗りやすいといわれています。また、コンフォメーションが良い馬は、運動器疾患の発症も少ないと考えられます。したがって、せり市場では誰もがコンフォメーションの良い馬を理想として求めています。一方、コンフォメーションに欠点のない馬が競走成績も素晴らしいか?というと必ずしもそうとはいえません。サラブレッドは、血統、気性、敏捷性など、コンフォメーションのみでは判断しにくい要素も競馬での能力発揮に大きく関わっています。極端な言い方をすると、肢がまっすぐで凡庸な馬がいいのか、欠点があっても走る馬がいいのかというと、後者が正しいといわざるを得ないのが、結果がすべてである競走馬です。
 しかし、馬を評価するためにはコンフォメーションの知識は必要です。また、コンフォメーションの異常は、特定の疾病の発症しやすさと関連もあるといわれていますが、その詳細については明らかではありません。今回はJRAがこれまで1歳市場購買検査時に実施してきた四肢のコンフォメーション調査の成績(現在も継続して調査中)を中心に基礎知識を紹介いたします。

コンフォメーション調査
 2009~10年に開催されたサラブレッド1歳市場(セレクトセール、セレクションセール、サマーセール)の上場馬のうち、1,984頭を対象として18項目にわたるコンフォメーションについて、グレードの高さ(グレードが高いほうが正常から逸脱している)を調査しました。調査項目を表1に示します。なお、軽度のグレードについては、多くが競走馬として問題ないことがわかっているため抽出せず、グレードの高いもののみを抽出しました。なお、グレードの高い項目が複数認められた馬については、よりグレードの高い項目を採用しました。1項目以上のグレードが高い馬については、市場取引成績、2歳時の競走パフォーマンス(成績および運動器疾患の発生状況)との関連を調べました。
 調査の結果を表2に示します。検査頭数の7.5%にあたる149頭(抽出馬)が、コンフォメーショングレードが高い馬として抽出されました。なかでも、オフセットニー(図1、43頭 2.17%)および凹膝(図2、29頭 1.46% )などの前肢に関する異常が多く観察されました。

1_5 図1 オフセットニー

2_6 図2 凹膝        

イギリスとアイルランドにおける1歳市場の上場馬を対象とした調査においては、外向、内向および起繋が高い発生率(30.1%,19.4 %および18.7%)を示し、アメリカの調査では、前肢の腕節および球節に限定すると、オフセットニー(66~68%)や腕節の外向(46~56%)の発生率が高いことが報告されています。今回の調査と比較して、他国の報告は高い値を示していますが、これは、我々が実施した調査においては、コンフォメーショングレードが高い馬のみを抽出する手法を採用していることが要因です。たとえば、クラブフットの発症率は当歳馬の実態調査で報告されている16%と比較すると、1歳馬を対象とした本調査での0.2%は著しく低い値になっていますが、調査方法の相違に加え、発症後の装蹄療法の効果が背景にあるものと考えられます。

調査結果
 抽出馬と対照馬について、セリ市場における売却率および平均売却価格を比較検討したところ、抽出馬の売却率(43.6%)および平均売却価格(8,939,538円)は、対照群の売却率(54.3%)および平均売却価格(10,467,220円)に比べて統計的に有意に低いことがわかりました。つまり、市場において、コンフォメーショングレードの高さは売却率や売却価格に影響を及ぼしているものといえます。
 競走年齢に達した検査対象馬937頭(抽出馬149頭、対照馬788頭)のうち、604頭(抽出馬51頭、対照馬553頭)が競走馬として中央競馬に登録され、466頭が中央競馬の競走に出走しました。中央競馬に競走馬登録された604頭について、2歳時の競走成績(出走率、初出走までの日数、勝ち上がり率、入着率、平均勝利回数、平均出走回数、平均獲得賞金)を調査したところ、抽出馬と対照馬との間に統計的な差は認められませんでした。なお、3歳以降についての成績については現在調査中です。
 中央競馬への登録率を比較した場合、対照馬(553/788、70.2%)に対し、抽出馬は(51/149、34.2%)は低値を示しました。この要因として、購買関係者による低評価、もしくは中央競馬への出走が困難となる疾患の発症などが考えられますが、本調査においては、その原因を特定することができていません。
 中央競馬に在籍した604頭の馬について、運動器疾患の発症歴を調査したところ、抽出馬においては、35.3%にあたる18頭に、対照馬においては、29.8%にあたる165頭に、骨折、骨膜炎および屈腱炎等の運動器疾患の発症が確認されました。しかし、今回の調査においては、各項目と発症した運動器疾患との間に統計的な差は認められませんでした。
 今後も継続して調査しデータ数を増やすとともに、コンフォメーション異常と疾病発症の関連について調査をしていく予定です。その関連を明らかにすることによって、疾病発症のリスクを軽減した飼養・調教管理技術の向上に寄与できるのではと期待しています。

表 1 おもなコンフォメーション

表2 各コンフォメーションと2歳時の競走パフォーマンス table12.xlsxをダウンロード

(日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

2019年3月25日 (月)

レポジトリーの普及と今後の課題

No.57 (2012年6月15日号)

レポジトリーとは
 レポジトリーとは、販売申込者から提出されたセリ上場馬の「四肢レントゲン像」や「咽喉頭部内視鏡像」などの医療情報を、予め購買者に公開するシステムです。国内の市場では2006年のセレクトセール1歳市場からレポジトリーが行われるようになり、今までに徐々に普及してきました(図1)。

1_2図1 セリにおけるレポジトリールームの様子(2012トレーニングセール 札幌)
上場者から提出された四肢レントゲン像、咽喉頭部内視鏡動画の閲覧ができる。

 このレポジトリーは、購買者・販売申込者・主催者の3者にメリットがあるものです。すなわち、購買者はレポジトリー資料を血統的背景や外貌上の特徴に加味して購買判断の一助とすることで、安心、納得して取引を行うことができるメリットがあります。一方、販売申込者は上場馬の状態を予め開示することで、疾病のリスクを知らせたり、品質を保証したりできるため、上場馬の価値を高めるとともに売買に関するトラブルの発生を未然に防止することができます。これにより、セリ場で同じ説明や検査を繰り返す必要もなくなり、人だけでなく馬の負担も減らすことができます。また、主催者にとっても、売買に関するトラブルの防止は、市場の信頼性を高めるメリットがあります。

レポジトリー所見と競走能力
 四肢レントゲン像では、関節のOCD(離断性骨軟骨症)や骨嚢胞、あるいは陳旧性の骨折や手術跡などの所見を確認することができます。各々の所見の発生状況や将来的に運動能力に及ぼす影響について、JRAを含め海外でも様々な調査研究が行われています。それらの調査研究によると、多くの臨床症状を伴わないレントゲン所見は、そのまま調教を行っても運動能力に問題はなく、臨床症状を呈する所見もあらかじめ適切な外科手術などの処置を施すことで、競走馬として活躍することが可能であることが報告されています。国内においても市場の主催者を中心にレポジトリーにおけるレントゲン所見の発生率などが調査され、上場馬を購買する際の判断基準が提示されるようになってきました。一方、咽喉頭部の内視鏡動画では、喘鳴症の原因となる喉頭片麻痺やDDSP(軟口蓋背方変位)、喉頭蓋の異常などの所見を認めることがあります。しかし、レポジトリーにおける咽喉頭部内視鏡所見の判断基準については、まだ、あまりよく調べられていないのが現状です。

喉頭片麻痺
 一般に「ノド鳴り」や「喘鳴症」と呼ばれている喉頭片麻痺の病態になると、吸気時に披裂軟骨が完全に開かず気道が狭くなるため、運動中にヒューヒューという異常呼吸音を発します。このような状態では、気道の吸気の流れが阻害されるため、プアパフォーマンスの原因となります。喉頭片麻痺は表1のように、その症状によりグレード分けされています。JRA育成馬を用いた調査では、若馬の14%以上がグレードⅠ以上の所見を有していること、グレードⅡまでは競走成績に影響を及ぼさないことが明らかになっています。一方、グレードⅢ以上の有所見馬になると、喘鳴症を発症することが多くなることから、麻痺して動かない披裂軟骨を固定する喉頭形成術が適応されます。喘鳴症の程度は安静時の内視鏡検査のみでは判らないことが多く、手術実施の確定診断にはトレッドミル走行時の内視鏡検査が有効な確定法となります。

表1 喉頭片麻痺(LH)グレード

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鎮静処置の咽喉頭部内視鏡所見に与える影響
 1歳サラブレッド若馬のレポジトリー検査では、生まれて初めて鼻腔に内視鏡カメラを挿入される場合も多く、検査時に激しく抵抗したり興奮したりすることがあります。このような馬には、薬物による鎮静処置を施してからレポジトリー検査を実施しなければならない場合もあります。鎮静処置により人馬の安全を確保した上で、正確な診断を下すことはとても重要です。しかし経験的に、咽喉頭部内視鏡検査では、鎮静処置により左右披裂軟骨の非同調性や咽頭虚脱の発症が起こり易くなる傾向があることが知られています(図2)。デンマークのグループの調査では、鎮静処置により健常な馬の披裂軟骨の開き具合が低下することが報告されています。低いグレードの喉頭片麻痺所見は、走行中の喘鳴音などの臨床症状を示さない限り、競走能力に影響がないことも分かっていますが、競走馬になってからの変化を危惧して、購買者から敬遠されてしまう原因になる可能性があります。このような鎮静処置誘発性の病態については、本来の状態を表していない可能性があるため、今後レポジトリーがさらに普及するためにも、さらなる調査と対策が求められます。

3_2図2 鎮静処置下の咽喉頭部内視鏡像
鎮静処置により喉頭片麻痺グレードが変化することもある。

最後に
 購買者はレポジトリーを利用して上場馬の現状を知り、購入を判断する一助とします。そのため、販売申込者が提出するレポジトリー資料は診断価値のある画像や動画でなくてはなりません。また、撮影手技の不備や診断基準の相違は、購買者の購入判断を見誤らせ、馬の価値に影響を及ぼす原因となります。信頼性の高いレポジトリーを普及していくことが、国内のサラブレッド生産と市場の活発化につながると思われます。

(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 佐藤文夫)

2019年3月18日 (月)

アスタキサンチンの「こずみ」予防効果

No.55 (2012年5月15日号)

競走馬の「こずみ」とは
 古くから日本の競馬サークルにおいて、背、肩、腰あるいは四肢の筋肉痛により歩様がギクシャクして、伸び伸びした感じが無い状態のことを「こずみ」や「すくみ」などと呼んでいます(図1)。重症例では筋細胞のミオグロビン由来による赤黒い尿(筋色素尿症)を排尿したり、痙攣や起立不能を呈したりします。稀に急性腎不全や多臓器不全を併発することもあります。一方、軽度な「こずみ」は多くの競走馬に頻繁に認められる疾患でも、特に新しい環境に慣れていない新入厩馬には高率に発症が認められます。強直歩様や歩行困難を呈すると調教メニューの変更を余儀なくされることから、実際には多くの厩舎関係者が最も気を配っている疾患といっても過言ではありません。

1_4 図1「こずみ」の発症馬
レースや調教において強い運動負荷が加わるサラブレッドには筋肉疲労による「こずみ」症状が認められることがある。

原因は活性酸素
 運動や緊張により筋肉が収縮を繰返すと、筋細胞からは副産物として過剰な活性酸素が発生します。過度な活性酸素の発生は筋細胞膜を酸化し、傷つける原因となります。さらに、損傷を受けた筋細胞には炎症反応が引き起こされます。この炎症反応も多量の活性酸素を発生させ、さらに筋損傷を悪化させ原因となるのです。これらのことから、「こずみ」の原因は、活性酸素による筋細胞の酸化・損傷ということになります。したがって、過剰な活性酸素を除去することができれば、発症を予防することができるのです。

アスタキサンチンの抗酸化力
 アスタキサンチンとはカロテノイドの一種で、鮭やエビなどの海産物に多く含まれる天然の赤い色素成分で、活性酸素種に対する強力な抗酸化能を有することが知られています。その抗酸化能は、ビタミンCの6,000倍、コエンザイムQ10の800倍、カテキンの560倍、αリポ酸の75倍と非常に強力です。アスタキサンチンは生体に吸収されると主に細胞膜に分布し、細胞膜の酸化抑制に働くことが知られています。すでに、人のスポーツ選手では、コンディショニング維持やミドルパワー向上へのアスタキサンチンの応用が検討されてきています。

「こずみ」発症予防効果
 そこで、我々はアスタキサンチンの優れた抗酸化能に注目し、サラブレッドの「こずみ」の発症予防への応用性について検討しました。試験には、JRA日高育成牧場において育成調教過程のサラブレッド2歳馬58頭を用い、無作為に投与群と非投与群の2群に分け、投与群には2ヶ月間、アスタキサンチンを1日75mg混餌投与しました(図2)。投与期間中の運動調教は、総延長1kmの坂路コース(最大斜度5.5%、㈶軽種馬育成調教センター)を1日2本駆け上ることを基本メニューとして、その走速度は調教進度とともに次第に増強していきました(図3)。

2_4 図2 アスタキサンチンサプリメント(左写真の赤い粉末)の混餌投与
嗜好性は良好であった。

3_3 図3 JRA日高育成牧場における坂路調教中の育成馬

 その結果、調教終了3時間後の筋損傷指標(クレアチニンキナーゼ活性)は、非投与群では有意な上昇が認められたのに対して、投与群では有意な上昇を認めませんでした(図4)。また、投与試験中の「こずみ(筋肉痛)」症状を発症した馬の割合は、非投与群では38%(11/29頭)であったのに対して、投与群では10%(3/29頭)となり、投与群の発症率は有意に低くなりました(図5)。さらに、非投与群の「こずみ」発症馬11頭のうち8頭(73%)が試験期間中に複数回の筋肉痛症状を再発したのに対して、投与群の「こずみ」発症馬3頭は再発しませんでした。

4 図4 血中筋損傷指標(クレアチニンキナーゼ活性)の変化
アスタキサンチン非投与群では運動強度の増加によって有意な上昇が認められるのに対して、投与群では有意な上昇は認められなかった。

5 図5 アスタキサンチン投与による臨床症状(こずみ)の発症率
アスタキサンチン投与により有意に筋肉痛症状発症馬が減少した。

最後に
 激しい調教やレースを行うサラブレッドにおいて「こずみ」は職業病のようなものですが、その予防法には多くの飼養関係者が様々な方法で対処してきました。「こずみ」の発症要因が活性酸素であることを考えると、アスタキサンチンのような優れた抗酸化能を有するサプリメントを効果的に活用することで、筋肉のダメージを防止し、「こずみ」の発症を防止することができると考えられます。馬体のコンディションを整え、トレーニングの効果を今まで以上に発揮させることが可能になれば、競走馬としてのパフォーマンスも最大限に引き出すことができます。今後もアスタキサンチンの優れた抗酸化能力の応用性について検討していく予定です。

(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 佐藤文夫)

2019年3月13日 (水)

JRAブリーズアップセールの新たな取組み

No.53 (2012年4月15日号)

 来たる4月24日(火)、中山競馬場で2012 JRAブリーズアップセール(第8回JRA育成馬調教セール)を開催いたします。本年も多くの皆さまのご来場をお待ち申し上げております。今回は、JRAが実施する生産育成業務の役割と本年のセールにおける新たな取組みについて紹介したいと思います。

JRA生産育成業務の役割
 JRAでは、各地で開催されるサラブレッド市場で購買した1歳馬を、日高・宮崎の両育成牧場で育成・調教したのち、2歳の春に売却しています。その目的である「強い馬づくり」に資するため、これらのJRA育成馬を用い、1歳夏から2歳春の後期育成期の調査研究や技術開発を実施し、競走裡で検証して成果を普及することです。
 また、JRAでは平成10年秋から生産に関する研究を実施しています。生産から中期育成期には“早期胚死滅”や“DOD(発育期整形外科疾患)”など、多くの課題が残されていることから、日高育成牧場に繋養する繁殖牝馬に対し2008年以降に種付けした産駒を用い、“母馬のお腹の中から競走馬までの一貫した調査研究や技術開発”を実施することとし、その成果の普及・啓発にも取り組んでいます。このようにJRA日高育成牧場で生産した産駒をJRAホームブレッドとよび、1歳夏以降は市場購買馬とともにJRA育成馬として管理されます。これまで得られた研究成果として、“乳汁のpH測定による分娩時期の推定方法”や“ホルモン処置によって泌乳誘発した非分娩馬の乳母としての導入”があります。これらは、講習会や雑誌等によって公表、普及していますので※1、ぜひ活用していただければと考えています。また、昨年ブリーズアップセールで売却した後、競走馬となったホームブレッドは、トレセンの競走馬診療所と連携し、調教中の心拍数測定や飛節OCD所見の変化等、継続して競走期のデータを蓄積されており、現在、研究成果を競走裡で検証しているところです。
さらに、BTC(軽種馬育成調教センター)研修生やJRA競馬学校騎手課程生徒に対する人材養成にもJRA育成馬を活用しています。この実践研修の一環として、騎手課程生徒は、多くの馬主や調教師の見守る中、JRAブリーズアップセールの調教供覧で騎乗することになっています。

セールにおける新たな取組み
 2012JRAブリーズアップセールでは、これまで同様、“購買者の視点に立った運営”を維持しつつ、新規の方や不慣れな方にもよりわかりやすく参加しやすいセールを目指し、以下のような新たな取組みを実施します。

1)「前日展示会」の開催
 セールを火曜日に移行し、月曜日に前日展示会を実施します。JRAでは購買者ニーズに合致したセール運営を目指す中で、馬主や調教師の皆様にアンケート調査を行なったところ、「セール当日に馬を十分に吟味する時間が不足している」との指摘が多く寄せられました。これに応える取組みとして、セールを4月24日(火)に移行し、4月23日(月)は「前日展示会」の日として、装鞍所での比較展示を行うとともに、従来セール当日に公表していた個体情報冊子と台付価格表を配布し、十分にご検討いただく時間を設けました。
 「前日展示会」以外にも、4月19日(木)~22日(日)の10時~17時には、厩舎で購買候補馬のチェックを行うことが可能です。また、滞在中の調教【5時半頃~9時半頃】もご覧になることが可能です。(事前下見のお問合せは、ブリーズアップセール特設電話 TEL:080-3588-4357(4/16以降開設)にお願いします)

2)新規馬主に対するセリ市場参加の促進
① 育成馬を知ろう会 in宮崎(3/9~3/10)の開催
 新規馬主(2009年1月以降に馬主登録された方)を対象として、宮崎育成牧場で育成したJRA育成馬を用いて、「セリで購買する際の馬の見方」などを解説するとともに、「セリへの参加の仕方」、「購買した馬が競走馬になる過程でどのような育成調教がなされているか」などを、お伝えいたしました。また、この開催に賛同する日本馬主協会連合会競走馬資源委員会、日本調教師会およびセリ市場主催者からのご案内もお伝えしました。当日は、10組の新規馬主とその関係者の皆様が来場され、南国宮崎でのイベントを楽しんでいただけました(写真1)。

1_2 (写真1)生産育成対策室の山野辺室長が、JRA育成馬を活用してセリにおける「馬の見方」を解説しました。

② 新規馬主限定セッションの開催 
 JRAホームブレッドの売却を新規馬主の方(09年1月以降に馬主登録された方)に限定して実施します※2。限定セッションでは、多くの新規馬主の皆様に馬を所有していただくチャンスを広げるため、お一人1頭のみの購買制限を行わせていただきます(限定セッション上場馬が売却されず再上場された場合は、全馬主が参加可能となり、購買頭数の制限はございません。詳しくは名簿をご覧ください)。

3)早期のセール情報発信
 冬季の降雪や寒さのため、これまで作成が遅れていた“調教VTR”や“馬体写真カタログ”などのセリ情報を、従来よりも早期(4月初旬)にJRAホームページ上に発信します。また、事前に購買登録を済ませた馬主の皆様に対しましては、要望の多かった調教DVDの早期配布を実施します。これは、従来1600m屋外トラックで撮影していた調教DVDを、屋内坂路で撮影することにより可能となりました(1600mの調教状況は後日、JRA育成馬ブログ「JRA育成馬日誌」でご覧いただけます)。

4)鑑定人によるセリ上げの「先読み方式」採用
 鑑定人がセリ上げる金額を事前に購買者に問いかける「先読み方式」を採用します。例えば、最初に800万円の声がかかった場合、鑑定人は次に「800万円の上はありませんか?」と問いかけるのではなく、「850万円のお声はありませんか?」と次の価格を提示してセリをリードする方式です。この方式によって購買者が自分の予算に応じた範囲でのセリ上げが容易になるとともに、セリに不慣れな方も声をかけやすくなるものと考えています。
 JRAブリーズアップセールでは、前日に公表する「台付け価格」がリザーブ価格であるとともに、セリのスタート価格となります。また、購買者の皆様がご予算に応じた購買馬の選定が容易となるように声をかけやすいリーズナブルな台付け価格を設定していますので、気に入った馬に一声でも声をおかけいただきたいと願っています。

 JRAブリーズアップセールは、これまで同様、来場された皆様がセリを楽しんでいただけるよう、また、皆様の信頼を失わないよう、今年も適切な運営に取組んでまいります。セール当日には、5月から行われる民間の2歳トレーニングセールや夏の1歳市場および秋・冬の繁殖馬市場などの主催者ブースを設ける予定です。JRAは、ブリーズアップセールへのご来場により、一人でも多くのお客様が“セリに参加しよう”というきっかけづくりとなることを願っています。

※1グリーンチャンネル「馬学講座ホースアカデミー(全9話)」として、昨年8月から本年3月まで放映したJRAの生産育成研究成果をDVDにまとめました。このDVDおよび「育成牧場管理指針Ⅱ-生産編-」が必要な方は日高育成牧場(0146-28-1211:担当 石丸)または馬事部生産育成対策室(03-5785-7535:担当 吉田)までお問い合わせください。

※2「新規馬主限定セッション」に参加される方は、事前の購買登録が必要であることなど、売却馬名簿に定める基準を満たす必要があります。なお、調教進度遅れとして上場の場合は、限定セッションから除外します。また、欠場または調教進度遅れにより、対象となるホームブレッドが5頭に満たない場合は、市場購買馬を補欠馬として加えることがあります。

2_2 (写真2) 昨年のブリーズアップセール風景

(日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

2019年3月 4日 (月)

坂路トレーニングの効果(2)

No.49 (2012年2月15日号)

 前回の記事では、トレッドミルで得られた傾斜の違いが呼吸循環機能におよぼす影響に関する成績を紹介しました。トレッドミルを用いた研究では、傾斜が1%増えると、走行中の心拍数はおよそ4~6拍/分くらい増えるという結果が得られました。つまり、同じスピードで走っているときの心拍数は、3~4%傾斜では平坦(0%傾斜)に比較して10~25拍/分前後多くなる計算です。この差をハロンタイムに換算すると、3~4%傾斜では平坦にくらべて、2~4秒くらい遅いスピードで負荷が同じになることがわかります。

野外坂路コースでの心拍数
 浦河町の軽種馬育成調教センター(BTC)にも屋内坂路コースがあります。この屋内坂路コースの表面素材はウッドチップとバークの混合素材です。そこで、表面素材がウッドチップで屋内坂路コースと似た表面素材を持つ屋内直線1000m平坦コースとで、走行中の心拍数を比べてみました。その結果、ハロンタイムで比較して、屋内坂路コースは平坦コースよりも2~4秒遅いタイムで同じ負荷がかかることがわかりました。屋内坂路コースの傾斜は大まかに言って3~4%なので、トレッドミル運動負荷試験で得られた傾斜の影響とほぼ同様な結果が得られているといってよいでしょう。どうやら、走路の表面素材が同じであれば、走行コースの傾斜変化が運動中の心拍数におよぼす影響は、野外であれトレッドミルであれ、ほぼ同じのようです。

上り坂走行と走行フォーム
 傾斜の変化が心拍数をはじめとする呼吸循環機能におよぼす影響は前述のとおりですが、走行フォームにおよぼす影響はどうなのでしょうか。
 馬がギャロップで走っているときの四肢の着地の順番は、左手前ギャロップであれば、右後肢→左後肢→右前肢→左前肢の順に四肢を着地し、左前肢で踏み切って空中に浮き、再び右後肢を着地します(図)。

1_3 図1:ギャロップ走行時の四肢の着地順と1完歩。1完歩の長さ(ストライドの長さ)は、4つの歩幅の合計{(A)+(B)+(C)+(D)}で表される。傾斜がきつくなると、(A)で示した両後肢間の歩幅は短くなる傾向にあった。(B)で示した手前後肢と反手前前肢で作る歩幅は長くなる傾向にあり、(D)で示した空中に浮いている歩幅は、傾斜がきつくなるにつれて短くなった。

 一本の肢が着地してからもう一度着地するまでの1サイクルを1完歩(1ストライド)というわけです。右後肢を基点に考えると、1ストライドの幅は、右後肢と左後肢で作る歩幅(A)、左後肢(手前後肢)と右前肢(反手前前肢)で作る歩幅(B)、右前肢と左前肢で作る歩幅(C)、空中に浮いている歩幅(D)の4つの歩幅の合計で表されることになります。
 トレッドミルを用いて、上り坂を走行しているときの走行フォームを分析すると、図の(A)で示した両後肢間の歩幅は、傾斜がきつくなると短くなる傾向にありました。これはおそらく、両方の後肢の幅を狭くすることで、推進力を大きくしようとしているのだと思われます。また、(B)で示した手前後肢と半手前前肢で作る歩幅は、傾斜がきつくなると長くなる傾向にありました。つまり、体を前に伸ばす傾向があることがみてとれます。(C)で示した前肢で作る歩幅はあまり変化しませんでしたが、(D)で示した空中に浮いている歩幅は、傾斜がきつくなるにつれて短くなりました。
 もう一つの大きな特徴は、頭の動きが大きくなることです。上り坂を効率良く走りあがるためには、推進力をより有効に使う必要があります。このために、後肢の間隔を狭めて推進力を大きくしようとしている訳ですが、推進力が働く方向も重要になります。坂路を走行する際には、馬の重心の位置を前方でしかも下方方向へ持っていくようにしないと、後ろにひっくり返ってしまうことになります。そのため、頭部をより前下方に下げることで、体の浮き上がりを抑えているわけです。坂路を走行する時には、馬は自然と頭の動きを大きくしているのです。

坂路調教の特徴
 坂路調教の特徴はなんといっても遅いスピードで大きな負荷がかけられることです。もっとも普通に用いられている傾斜3~4%の坂路コースでは、平地に比べてハロンタイムで2~4秒遅いタイムで、平地と同様の負荷をかけることができます。
 走行フォームから見ると、後肢の負担が増えることになるので、後肢に対する有効なトレーニングになります。また、体を前に伸ばし、頭を下げて走ることを覚えさせることもできます。一方で、後肢の負担が増えるので、騎乗にあたっては注意も必要になります。たとえば、馬が頭を上げた状態で走ると、後肢に負荷がかかりすぎ、筋肉や関節を痛める原因ともなります。馬が頭を上げないように注意して騎乗する必要があります。
 坂路調教のもうひとつの大きな特徴は、坂路は距離が決まっているため、トレーニングが必然的に反復あるいはインターバル形式になることです。反復トレーニングは、強度の設定が比較的簡単で、トレーニングを安全かつ有効に行なうことができます。注意点は、坂路調教のような短時間の運動は、一見楽そうに見えるという特徴があることです。実際は、2歳の2月頃を例にとると、ハロン18~20秒程度の運動でも、かなりの負荷がかかっています。しかし、外見上は楽そうにみえるので、もっと強めの調教をしても大丈夫と思いがちです。特に、若馬の場合には、過剰な負荷がかかることを念頭にいれておくことが必要です。

                (日高育成牧場 副場長 平賀 敦)

2019年3月 1日 (金)

坂路トレーニングの効果(1)

No.48 (2012年2月1日号)

 坂路コースは北海道においても数多くみられるようになりました(図1)。坂路トレーニングは文字通り、上り坂を利用したトレーニングです。走路の傾斜がきつくなれば、それだけ呼吸循環機能にかかる負荷が増えることは容易に想像できますが、走路の傾斜の違いによって呼吸循環機能にかかる負荷の程度がどのくらい違うのかを、野外の坂路コースを使って評価するのはそれほど簡単ではありません。
傾斜の異なる上り坂を走っているときの呼吸循環機能を評価するためには、傾斜の設定を簡単に行なうことのできるトレッドミルが大変役に立ちます(図2)。今回は、トレッドミルを用いて、走路面の傾斜の違いが走行中のサラブレッドの呼吸循環機能におよぼす影響を調べた結果について簡単に紹介したいと思います。

1_2 図1:JRA日高育成牧場の屋内坂路コース

2_2 図2:トレッドミル運動負荷試験

トレッドミルは傾斜の設定が簡単に出来るので、傾斜の違いが呼吸循環機能におよぼす影響を調べるのに有用である

傾斜の変化と呼吸循環機能
 トレッドミルを用いた実験では、酸素摂取量(1分あたり、体重1kgあたりの量ミリリットル)をはじめとして、1分間当たりに肺に取り込まれる空気量である分時換気量、1回の呼吸で肺に取り込まれる空気の量である1回換気量、1分間当たりの呼吸数、心拍数などを測定しました。
 酸素摂取量は、走行スピードが速くなるのに比例して増加しました(図3)。傾斜が0%でも、3%でも、6%でも、10%でも、いずれの場合でも、スピードが速くなると、それに比例して右肩上がりに酸素摂取量が増加しているのがわかります。一方、傾斜が0%から3%→6%→10%ときつくなるにつれて、酸素摂取量も増加しているのが分かります。たとえば、秒速10mで走っている場合で比べると、0%では約90ml/kg/minであった酸素摂取量が、3%では約120ml/kg/min、10%では約160ml/kg/minとなっています。いうまでもなく、運動がきつくなればそれだけエネルギーが多く必要になるので、それに伴ってエネルギー生成のための燃料である酸素の要求量も増えるというわけです。

3_2 図3:酸素摂取量は、走行スピードが速くなるとそれに比例して増加する。傾斜が0%でも、3%でも、6%でも、10%でもいずれの場合でも、走行スピードが速くなると、それに比例して酸素摂取量は右肩上がりに増加しているのが分かる。一方、傾斜が0%から3%→6%→10%へと増加するにつれて、酸素摂取量も増加している。

傾斜の変化と換気
 酸素摂取量が増えるということは、肺における空気の取り入れ、すなわち換気が亢進していることを意味しています。1回換気量に1分間あたりの呼吸数を掛け算すると、1分間当たりに体内に取り込まれる空気の量、すなわち分時換気量が求められます(分時換気量=1分間当たりの呼吸数×1回換気量)。分時換気量は、秒速10mで0%傾斜上を走っているときには、およそ1200リットルでしたが、10%傾斜上を走っているときには約1700リットルにまで増加していました。
 馬がギャロップで走っているときの呼吸は1回のストライドに1回になっています。1分間あたりの呼吸数は、0%傾斜上を走っているときと10%傾斜上を走っているときとを比較するとほとんど変わりませんでした。前述のように、分時換気量は1回換気量と1分間当たりの呼吸数の掛け算で求められます。呼吸数は傾斜が変化してもほとんど変わらなかったので、傾斜が0%から10%になったときに分時換気量が増加したのは、主に1回換気量が増加したことによることがわかります。つまり、傾斜のきつい上り坂を走っているときには、同じスピードであっても1回の呼吸量が増えていることになります。

傾斜の変化と心拍数
 心拍数は走行スピードが速くなるのに比例して増加しているのがわかります(図4)。傾斜が0%でも、3%でも、6%でも、10%でもいずれの場合でも、スピードが速くなると、それに比例して右肩上がりに心拍数が直線的に増加しています。一方、傾斜が0%から10%へと増加すると、それにつれて心拍数も増加しています。

4_2 図4:傾斜が0%でも、3%でも、6%でも、10%でもいずれの場合でも、スピードが速くなると、それに比例して右肩上がりに心拍数が直線的に増加している。一方、傾斜が0%から10%へと増加すると、それにつれて、心拍数も増加しているのが分かる。

 この実験で求められた傾斜および走行スピードと心拍数との関係からV200(心拍数が200拍/分になるスピード)を計算すると、0%傾斜におけるV200は秒速11.2mになります。同様に、3%傾斜におけるV200は秒速10.0m、4%傾斜におけるV200は秒速9.7mとなります。これをハロンタイムに直すと、0%傾斜はハロン17.9秒、3%傾斜はハロン20秒、4%傾斜はハロン20.7秒 くらいになります。つまり、3~4%傾斜では平坦(0%傾斜)にくらべて、ハロンタイムで2~3秒くらい遅いスピードで負荷が同じになることがわかります。

 トレッドミルを用いた実験によると、傾斜が1%増えると、走行中の心拍数は大まかにいって、4~6拍/分くらい増えるようです。つまり、同じスピードで走っていれば、平坦(0%傾斜)に比較して3~4%傾斜では、心拍数は10~25拍/分前後多くなる計算です。もちろん、心拍数は無限には増えないので、坂路コースでも最大心拍数である220~230拍/分が上限であることはいうまでもありません。

(日高育成牧場 副場長  平賀 敦)

2019年2月20日 (水)

JRA育成馬の調教方法

No.45 (2011年12月1日号)

 これまで、JRA育成馬の放牧管理、引き馬、飼料、ライトコントロール法等の飼養管理方法や、騎乗馴致方法について日高育成牧場の担当者が連載してきました。今回は、当場で現在行っている調教方法やその考え方について紹介します。

初期の騎乗
 騎乗馴致を終了した馬は、リードホースを先頭に800m屋内トラック(以下屋内トラック)での調教を開始します。騎乗調教開始初期は、馬自身が人を乗せて走るためのバランスや人を乗せて動くための筋力の会得に重点をおきます。そのため、初期段階では、人が馬の口を必要以上に引っ張らないよう、拳を下げてネックストラップを保持し、リズムよくゆっくりした速歩を行います。速歩では馬の頭頚の動きが安定しているので、馬自身が人を乗せて動くバランスを会得しやすいというのがその理由です。筋力がつき速歩のリズムが安定した後、騎乗者を乗せてゆっくりしたキャンターを行うことができるようになります。

角馬場での準備運動
 メイン調教場に行く前の準備運動として、角馬場(73m×40m)で速歩を2周ずつ両方の手前を実施しています。ここでの目的は、馬体のリラックスと調教監督者による歩様確認です。騎乗者は、馬をリラックスさせ手前に合わせた正しい軽速歩をとることが大切です。地道ですが、このことによって左右の筋肉の均等な発育を促し、ひいては走行バランスがいい馬につながるものと考えています。そのような考え方から、駆歩を実施する主運動コースである屋内トラックにおいても、基本的に両手前を実施します。競馬においては、最後の直線で手前変換が適切に実施できるかどうかが鼻差の勝負を制します。したがって、左右均等に良好な筋肉の発育を促すことが重要と考えています。

1_5 角馬場での速歩

1600mトラックや屋内坂路の活用
 屋内トラック以外の調教コースとして、日高育成牧場総合調教施設内の1600mトラックと1000m屋内坂路(以下屋内坂路)も活用しています。
 11月上旬から1600mトラックでのキャンター調教(走行距離1600m程度)を行います。ここでは、ある程度のスピードにのって(F23~20程度)まっすぐに走ることを教えます。
 1600mトラックがクローズになった後(12月)、屋内坂路の使用(週2~3回)を開始します。坂路調教のメリットは、平地よりも遅いスピードで心肺に負荷をかけることができること、トップラインを伸ばし後肢の筋肉を鍛えることができると考えています。さらに、私たちが屋内坂路を使用するそれ以外の理由として、①厩舎から調教場が遠いこと、②坂路を下る際に後肢をより深く踏み込んで歩くことで後躯の可動域を増加させる、という2点を考えています。①については、物理的に運動前後の常歩を多く行うことができるため、常歩を速く大きく歩かせることで馬の全身の筋肉を使ったバイタルウォークを促します。 また、②については、坂路を下る際は馬の後肢の関節可動域が大きくなります。特に若馬は柔軟なので、骨盤全体を大きく踏み込んで歩くフォームを覚えます。こうした運動により、通常は意識して鍛えることが困難な腹筋や斜角筋などのいわゆるアンダーラインの筋肉をトレーニングすることができるのではないかと期待しています。これらの筋肉が鍛えられると、坂路を上がる際に骨盤全体を使って後肢が踏み込むことが可能になり、また、肩の動きも大きくなります。結果として、頭頚が起きるとともにその位置が安定し、騎乗者がコントロールしやすいフォームで走行することが可能になるものと考えています。
 坂路調教初期のキャンターはリードホースの後ろを一列で走行し、列からはみ出して遊ばないようにどんどん前に出しまっすぐ走ることを教えています。
 また、これまでの育成研究の成果から、年内にある程度の負荷をかけてトレーニングを行っておくことで、育成後期のV200の値も高くなることが分かっています。どの程度の負荷が最適かは、今後も継続して調査を継続していかなければなりませんが、現在は、12月末までに屋内坂路で3Fを60秒程度の安定したスピードで、隊列を整えて走行することができることを目標にしています。

2_5屋内坂路での調教

隊列を組んだ集団調教の考え方
 競馬において多頭数で走行する際に求められる走りの要素をシンプルに分解した縦列での隊列を組んだ調教を応用しています。もっともシンプルな隊列は前の馬との距離を2馬身程度あけた「一列」での調教です。これは、前の馬についていくことでまっすぐ走ることを覚える、推進力をためた走りを覚えさせる、行きたがる馬を後ろで我慢させる、および、競馬において前の馬のキックバックによって砂をかぶることに慣れさせるなどが目的です。このような調教を積み重ねることで、馬の前進気勢をためて騎乗することが可能になり、後躯の筋肉により負荷をかけることができます。
 縦列調教の応用として、「二列縦隊」での調教や「3頭ずつに区切った一列調教」も行っています。二列縦隊での調教は前後左右の馬に慣れさせ、馬群の中でコントロールした状態でリラックスして騎乗できるようにすることを目的としています。したがって、屋内トラックでゆっくりした(F22程度)スピードで実施します。馬に体力がつき、坂路等でステディなスピード(F20-18程度)で一列の調教を実施する際には、隊列がバラけないよう、3頭単位で前の馬と距離をあけずに(テイルトゥノーズ)実施しています。馬に走るための行く気を喚起する効果があります。

3_3 縦列調教(屋内トラック)

4_3 二列縦隊での調教(屋内トラック)

5_2 3頭単位での縦列調教(屋内坂路)

1週間の調教
 調教に対するモチベーションを若馬に与えるためには、調教のオンとオフを馬に理解させる必要があります。そのため、1週間の中で強弱を明確につけた調教をパターン化して実施しています。2月中旬の調教の一例を示します。
 月曜日は、休日明けなので馬の張りをとり無駄な力を抜くため、屋内トラックで速歩を半周(400m)した後、2周半(2000m)の連続したキャンターを一列の隊列で実施します。
 火曜日と金曜日は週の中でも強めの調教を実施しています。まず、屋内トラックで一列の隊列で約2周キャンターを実施(1400m程度:F22秒程度)した後、屋内坂路へと移動し、3頭単位の一列隊列で坂路を2本(1000m×2:1本目3F60秒、2本目3F54秒程度)実施します。このときの最大心拍数と乳酸値は、1本目、2本目ともに心拍数が210-230回/分程度、乳酸値が6-12ミリモル/ミリリットル程度となり、有酸素能力を高めることができる値になっています(心拍数200以上、乳酸値4ミリモル/ミリリットル以上の負荷をかけた運動で有酸素能力を鍛えることができるとされています)。
 水曜日と土曜日は坂路調教の翌日なので、馬の精神面・肉体面のリフレッシュを図ることを目的に、屋内トラックを一列でゆっくり1周した後、手前を変えて二列縦隊で、リラックスしたキャンター(F23)を行います。
 木曜日は、スタミナをつけることを目的に、1本目は一列で2周(1600m:F25-22)したのち、2本目は手前を変えて二列縦隊で2周(1600m F22-20)行います。

スピード調教
 3月下旬までは、スピード調教は週2回屋内坂路で行います。屋内トラックでF22-20秒程度のキャンターを1400m行った後、屋内坂路で2本のキャンターを実施します。1本目は4頭単位で一列のキャンター3F54秒程度で実施した後、2頭併走で3F48秒を目安とした少し強めの調教を行います。このとき、併走馬同士をできるだけ近づけ走りたい気持ちを喚起しますが、人が鞭で叩いて追うということは行いません。逆に手綱をしっかりと保持し「走りたい気持ちを我慢させる」ことで走る気持ちを強くするように教えています。
 4月に1600mトラックが開場になったら、併走で3F45秒程度のキャンター調教を週2回行うとともに、セールに向けた単走の練習を行います。単走の練習は縦列調教の延長で教えます。最初は、馬と馬の間の距離を7馬身あけ、徐々にその距離を開け前の馬を目標に走る中で単走でも走ることができるように教えます。ブリーズアップセールでは2F13秒-13秒を目安に走行しますが、基本的な考え方は、6月の競馬デビューを見据え、そこから逆算して無理せず馬を鍛えていくようにしています。したがって、成長の遅い晩成型の馬は、馬の将来を考え、無理してスピードを出しすぎないように注意しています。

6 併走での調教(1600mトラック)

  (日高育成牧場 業務課長 石丸睦樹)

2019年2月13日 (水)

運動機能の発達様式(2):呼吸循環機能と有酸素運動能力の発達

No.42 (2011年10月15日号)

 前回の記事で、育成期のサラブレッドの持久力の変化について、最大酸素摂取量(VO2max)を物差しにして紹介しました。トレーニングすることで持久力がつくのは当然ですが、この時期はサラブレッドの成長期にもあたるため、成長それ自体の影響も無視できません。JRA日高育成牧場では、この時期の成長の影響を調べる実験をしてみました。

成長による酸素運搬系機能の変化
 1歳秋のブレーキングの後、普通のトレーニングを翌年の2歳4月まで行なった馬たち(トレーニング群)と、同期間を放牧のみで過ごしたトレーニングなしの馬たち(非トレーニング群)を比較してみました。すると、トレーニングを続けた馬たちの体重は、ブレーキング前の平均441kgから446kgにわずかに増加したのみでしたが、非トレーニング群の馬では同期間で454kgから491kgまで大きく増加しました。同期間のVO2maxの変化をみてみると、当然のことながら、トレーニングの状況を反映したものとなっています。ブレーキング前のVO2maxはおよそ130ミリリットル(ml/kg/min)でした。そして、その後2歳の春頃までトレーニングすると、VO2maxは160ミリリットル以上にまで増加していました。また、この期間を放牧のみで過ごした馬達でも、VO2maxの値はトレーニング群にはおよばないまでも140~150ミリリットルにまで増加していました。詳しいメカニズムはわかっていませんが、冬季間の放牧は(図1)、VO2max に何らかの影響をおよぼすものと考えられています。
 VO2maxは酸素運搬系機能の総合的な能力を示すものなので、VO2maxが増加するということは、酸素運搬系を構成する肺・心臓・骨格筋それぞれの段階でなんらかの変化がおこっていることを示しています。なかでも、実際に推進力の源となっている骨格筋におこる変化は重要と考えられています。

1_2 図1:1歳から2歳にかけての冬季間の放牧は、呼吸循環機能に対して何らかの影響を及ぼすようである。

北海道における育成期トレーニングの変化
 北海道においては、育成期に当たる冬季間は馬場の凍結により強度の高いトレーニングを負荷することは困難でした。しかし、近年では民間のトレーニング施設にも多くの屋内コースが整備されたため、以前に比べるとトレーニングの質・量ともに充実したものとなっています。さらに、2歳春のトレーニングセールの普及に伴い、2歳の早い時期からハロン13秒程度で2ハロンほど走ることが求められるようになったため、トレーニングの進展度合いは以前と比較すると格段に進んでいるのが現状です。北海道の冬季期間における育成期のトレーニングは、前回紹介したエバンスの期分けでいうと既に第2段階(有酸素的なエネルギー供給能力と無酸素的なエネルギー供給能力の調和した向上を図ることを目的とした段階)に達しているといってよいでしょう。特に屋内坂路コースが導入されてからは、無酸素性のエネルギー供給を刺激できる強度の強いトレーニングも比較的容易にできるようになりました。

坂路の利用と反復トレーニング
 JRA育成馬が調教するBTC(軽種馬育成調教センター)の施設には、さまざまなコースがあり、屋内坂路コースもそのひとつです。コースの全長は1000mで主要な走路部分の傾斜は2~4%、途中3ハロンのタイムを自動計測できるようになっています。おおまかにいって、傾斜が1%増えると、同じスピードで走っているときの心拍数は4~5拍程度増えます。傾斜2~4%の坂路コースであれば、平地よりもハロンタイムで2~4秒ほど遅いスピードで同じ負荷をかけることができます。
 図2のグラフは、屋内坂路コースを反復間隔約10分で2本反復したときの心拍数変化を示します。1本目の3ハロンの平均タイムはハロン19秒で、そのときの心拍数は約200拍/分です。約10分の間隔をおいて同じように2本目もハロン19秒で走っています。心拍数は1本目とほぼ同じです。運動直後の血中乳酸濃度は約6ミリモルでした。この調教は、速いスピードを負荷することなく、十分な強度のトレーニングとなっています。

2_2図2:屋内坂路コースにおける反復トレーニング時の心拍数変化。反復の間隔は約10分で、心拍数はいずれも200拍/分程度。血中乳酸濃度は6ミリモルで、無酸素性のエネルギー供給を刺激する内容となっている。


 坂路コースを使った運動は1本の走行距離が決まっているため、過剰な負荷を避けることができるという利点があります。反復運動では、それぞれの走行の強度を変えたり、反復間隔を変えたりすることで、トレーニングに多様性を与えることができます。先の例で言えば、2本目を16秒くらいにすると、血中乳酸濃度は10ミリモルを超え、無酸素性のエネルギー供給を効率よく刺激することができます。現在のようなトレーニングメニューでトレーニングされた馬では、VO2maxは楽に160ミリリットルを越えるようになっています。 

(日高育成牧場 副場長  平賀 敦)